清掃業

ボクシングジムの会長が経営する会社に、面接も受けずに働けることになった。


フィリピン人トレーナーが入館禁止になった施設での業務は、「マニュアルトランスミッションの軽トラックに乗って荷物を運搬する」というものだった。

最初はぎこちなく感じた運転も、マニュアル操作に慣れてくると、軽トラはまるで手足と一体化したように意のままに動くようになった。

僕は窓を全開にし、浜風を受けながら快走した。


業務は他にも、施設内清掃、公園の草刈りや樹木の剪定、ビルの窓拭きなどがあった。

特にビルの窓拭きでは、高所作業車やゴンドラを使うことがあり、その作業には独特の緊張感を伴った。


——まず、ビルの屋上から転落防止柵を乗り越えて、ゴンドラに乗り込む。


作業は二人一組で行い、ゴンドラを一階ごとに降ろして二枚の窓を拭く。

届きやすいところから水拭きをし、その後、スクイジーで水を切る。


届きにくい右窓の隅を拭こうとして、同乗者がゴンドラから体を乗り出すと、ゴンドラが揺れる。

その揺れを利用して僕は左窓の隅を拭く。

左右二枚とも拭き終わったら、下の階へゴンドラを降ろし、また窓を拭く。


僕たちは、この作業を丁寧に繰り返していく。

一棟をやり終えるのには数日間かかった。


ただ……この業務には大きな問題があった。


僕は高所恐怖症なのだ。

命綱を着けるからといって安心できるわけではなく、むしろその行為が逆に不安を駆り立てる。


この数日間は、本当に魂がり減る思いだった。

もう二度と、この業務にはたずさわりたくない。


この会社は社長、事務員、先輩の三人を中心に運営されていた。

僕は、この先輩の仕事ぶりや立ち居振る舞いに感銘を受け、心から尊敬し憧れていた。


ある日、先輩が副業をしていることを知り、副業の内容を尋ねた。

先輩がやっているのだから、きっと興味深いものに違いない。


今、ここで内容を話すよりも、説明会に参加した方が早いということになり、僕はその説明会に連れて行ってもらえることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る