副業

説明会は、スーツ着用が義務付けられていた。


僕はスーツを持っていなかった。

スーツなんか僕の人生には必要ないし、一生着たくないと思っていた。


しかし、そうではないのかもしれない。

先輩は、僕の考えを容易たやすくつがえしてしまった。


先輩がスーツを貸してくれたおかげで、説明会に参加することができた。

さらに、参加費も必要だったが、先輩が代わりに払ってくれていた。


流石は先輩である。

やることがスマートだ。


説明会が行われたのは、学校の教室ほどの狭い部屋だったが、それでも席は半分くらいしか埋まらなかった。

蛍光灯はやけに明るく、自分の存在が浮いているように感じた。


大きな声で自己紹介をさせられた後、副業についての説明を聞いた。

内容は抽象的で、どこか現実感に欠けていたが、話す人の口調には確かな熱意が感じられた。



説明会が終わり、先輩と駐車場を歩いていると、知らない男が声をかけてきた。

どうやらその男は、先輩の旧友らしい。


彼は駐車場の車止めに座り、うつむきながら話し始めたが、やがて立ち上がり前を向いて夢を語った。


時折、不安そうな顔を見せながらも話し終わると、力強く車のドアを閉め、狭い道を帰っていった。


薄暗い駐車場で見た、無垢に輝く彼の目を今でも思い出すことがある。



数日後、地元有名企業の社長と副業の件で面談をすることになった。

社長室に招かれ、社長の成功と夢の話に耳を傾けた。


大いに語る社長を尻目に、僕の心は冷め始めていた。

なんで僕は、今日もスーツなんて着ているのだろうか。


その後、美女と食事をしながら、副業の説明を受ける機会に恵まれた。

美女は、自分の父は警察官だということをほのめかしながら、儲け話に花を咲かせた。



会社の事務員も会員であり、商材を買ってしまっていることが分かった。

次の集会は、車で一時間以上を要する、広いドームのような場所で行われる。


事の真相を暴くために、事務員と相談の上、僕たちは潜入捜査を敢行することにした。

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