測量業(竹刈り編2)

以前お世話になった測量会社の社長から、また携帯電話に直接連絡があった。

「竹を切りたいから、ちょっと手伝ってくれ」という依頼だった。

「ちょっと手伝ってくれ」というレベルではないことは分かっていたが、仕事を探していた僕に、断る理由はなかった。


今回も、朝は事務所に出勤し、会社の車で竹やぶへと向かった。

着いた現場は、やはり見渡す限り竹に覆われた斜面だった。

作業の説明の際、今回は自家用車で現場まで来るように頼まれたことに、少し戸惑いを覚えた。

実家から現場までは片道25km。

始業は朝8時からだったからだ。


最初の作業は、以前切った竹の切り株に残る節に鉄の棒で穴を開け、その中に竹を枯らす薬剤を流し込むというものだった。

そうすることで薬剤が根に深く染み込み、竹が再び生い茂るのを防ぐ。


これを、以前切ったあの面積すべての切り株に行うというのだ。

この地道な作業が、竹との戦いを終わらせるための重要な一歩となる。

僕は薬剤の入った噴霧器を背負い、バールのようなものを使って節に穴を開けながら、急斜面での作業を進めた。


社長は昼前に会社に戻る予定らしく、「明日からも頼むな」と僕に声をかけてきた。

しかし、僕の頭の中にはずっと「始業8時、片道25km」が引っかかっていた。

すると、社長は僕の表情を読み取り、少し考えてから「時給100円上げるわ」と宣言した。

あの瞬間の判断に、社長が社長たる所以ゆえんを垣間見た気がした。

本当はそれでも少し嫌だったが、社長の気持ちに応えるべく、働くことを了承した。


数日かけて薬剤注入を終わらせた後は、この年ももちろん言うまでもなく、朝から夕方まで、とにかく竹を切りまくった。

高所恐怖症の僕に測量業務が回ってくることはなく、ただひたすら竹刈りに専念した。


今回、一緒に働いた人の中には、がいた。

地元に抱いていた違和感について尋ねると、いろいろと「黒い話」を教えてくれた。

何はともあれ、一般人はこつこつ働くしかないようだ。


竹を切り終えると、支えてくれていたものがなくなり、足元が頼りなく感じられ、急斜面に吸い込まれるような怖さがあった。

切られた竹はうずたかく積み上げられ、整然と並べられていた。

道行く地元の方から「対面の景色を拝めるのは何十年ぶりだろう」という声をいただいた時、僕の達成感はより確かなものになった。


そして、竹刈りの季節は終わり、四度目の退社を迎えた。

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