サービス業
「あなたは、本当に誰とでも上手くやっていけますか?」
この質問をする直前から、面接官の顔は引きつり始めていた。
それまでは、和やかに話が進んでいると思っていた。
それに、僕がボクシングをやっていると話した際には、応援してくれるとも言っていたはずなのに。
確かに、僕は見た目が怖い。
悪人面に坊主頭、体格も良く威圧感があり、さらにボクシングをやっている。
こうして並べてみればよく分かる。
面接官も責任者として思うところがあるのだろう。
そう考えて落ち込んでいたが、話は思っていたのとは違う方向に進み始めた。
僕が応募したのは、映画館スタッフの募集だった。
ただし、フィルム管理という完全に裏方の仕事だ。
しかし、この業務を担当する仲間の中にトラブルメーカーがいるらしい。
「大丈夫だと思いますよ」
僕は、軽く返事をして、採用してもらうことになった。
誰とは聞いていなかったが、トラブルメーカーが誰かはすぐに分かった。
それ以外の映画館スタッフは、やはりいい人ばかりだった。
さすがはサービス業の従事者だ。
彼らはいつも笑顔を絶やさずに接客をしていた。
裏方の仕事は、主に映写機にフィルムをセットすることだった。
この映画館には、10のスクリーンがあり、同時に10本の映画を上映できる。
上映後は、映写機を掃除して、次の上映時間までにフィルムをセットする。
それが僕の主な業務だった。
バイトのシフトは火・木・土曜日と決まっていたので、僕はなるべくシフト表を見ないようにしていた。
シフト表を見てしまうと、その日に誰とペアを組むかが分かってしまうからだ。
やはり、僕も多分に漏れず、トラブルメーカーとの業務は苦痛だったのだ。
新しいボクシングジムへ来て、半年ほどでプロテストを受けることになった。
プロテストに合格すれば、映画館のバイトを辞める口実になる。
お金には困るが、心の平穏には代えられない。
「俺、このプロテストに合格したら、映画館でのバイトを辞めるんだ……」と、独りごちてみた。
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