一人暮らし

ボクシングを辞めて実家に帰ってきた。


アマチュアボクシングでは、国民体育大会にも出場した。

僕は弱くはないが、残念ながら強くもなかった。

それなりに満足する結果を残し、ボクシングを辞めることができた。


実家にいると、親から「体がなまるぞ、シャキッとしろ」と言われた。

ジムに住み込みで生活していた時は、食事の準備や洗濯、そして仕事やジムワークなど、やらなければいけないことを当たり前にこなしていた。

しかし、実家では、それらを何もやらなくなっていた。

実家の居心地の良さに甘え、すっかり怠惰になっていた。


実家に帰ってきてから1ヶ月も経たないうちに、家を追い出されることになった。

そういえば、前にお世話になったフィリピン人トレーナーが、薦めてくれたジムがあった。

実家から、そのジムまでは120kmほどあるらしい。

今、グーグルマップで調べたから間違いない。


一人暮らしをしながら、他県のボクシングジムで鍛えられることになった。

なぜか、僕はまたボクシングをやることになっていた。


引っ越しは、自家用車だけで充分間に合った。

大きな荷物は、親の知り合いにもらった洗濯機だけだったからだ。

しかし、まだ一人暮らしに必要なものが足りていない。

とりあえず冷蔵庫は、引っ越しが終わってから改めて買いに行った。


アパートは古く、半分は空き部屋だった。

家賃の安さだけで決めたから、しょうがないといえるのか、お風呂がバルコニーからはみ出すように設置されていた。


お風呂はプロパンガスで沸かすのだが、台所のプロパン契約とは別だというのだ。

契約は台所だけにして、ボクシングジムのシャワーを毎日借りられるようにお願いした。


夏になると隣の部屋の玄関は全開のままで、隣人さんは全裸で生活をしていた。

後にパート仲間から聞いたのだが、「が住む所だから、私は近づかない」と言われるようなアパートだった。


そのパート仲間とは、倉庫業で一緒に働くことになった人のことだ。

そして、その倉庫業のパートは無料求人誌で見つけたものだった。

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