測量業(事務所編)
消防設備業を辞めた後に就いたのは、短期の事務仕事だった。
無料求人誌で勤務先を探しながらも、初めてハローワークというところにも行ってみた。
ここで、無料求人誌には載っていなかった、特別な仕事を見つけた。
「緊急雇用創出事業」
たしか、そんな名前が付いた求人だった。
それは素人でもできる短期の事務仕事だった。
この頃は短期で働きお金を貯め、満期になったらボクシングに集中するという流れで働いていた。
この仕事は、個人情報が載った書類を扱うもので、土木事務所の最上階で缶詰めにされた。
日頃は個人タクシーのドライバーをしているというおじさんとの、二人きりでの作業だった。
書類の不備を見つけたら、赤色鉛筆で修正をする。
ただひたすら8時間これを続けるのだが、おじさんと話しながらできることは救いだった。
ちなみにこの時おじさんは、酔っぱらいにタクシーの中で嘔吐されてしまい、タクシーごとクリーニングに出しているところだったらしい。
おじさんは、タクシーに有名人を乗せた話や、目的地に着いたと思ったら同じ名前の違う場所だったという話などを面白おかしく話してくれた。
休み時間には、僕が持ってきた携帯ゲーム機を、おじさんにプレイしてもらうことが日課になっていた。
リフレッシュのために、一緒に散歩に出かけることもあった。
ある時からおじさんは、僕に大手牛丼チェーンのテイクアウトを奢ってくれるようになっていた。
自分より30歳も若い僕に合わせて遊んでくれたり、牛丼を奢ってくれたことには、本当に感謝しかない。
期間満了までの3カ月は、あっという間に過ぎてしまった。
仕事はしっかりとこなしたが、達成感や充実感は特になかった。
おじさんと遊べなくなるのは残念だが、短期の仕事としての出会いだったのだから仕方がなかった。
その後も、お互いに電話をかけ合ったり、一緒に食事に行ったこともあったが、それももう今は昔である。
半年後、測量会社の人事から僕の携帯電話に連絡があり、「合格前提で面接に来てほしい」と言われた。
こうして、僕は新たな仕事に就くことが決まった。
どんな仕事をやるのだろうか、今度は事務仕事じゃないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます