測量業(GPS編)

面接の日に会社を訪れると、人事担当者は不在だった。

その代わりに、社員のおじさんが「えぇ、オレ?」と言いながら出てきて面接をしてくれた。

僕の自己紹介が終わると「いいよ合格で。はい、終わりね」と言って面接は終了した。


今度の仕事も、二人で行う。

小型GPSレコーダーで位置情報を観測しながら、小さな作業道の管理状況を調べるというものだった。

この作業道が昇格すると、林道になるらしい。

その際、移動に使うのはマニュアルトランスミッションの軽バンだった。

体が運転を覚えていて、森林浴さながらに作業道を駆け抜けた……ということはなく、再び運転技術の習得に苦戦するのであった。


作業道は管理が行き届いておらず、路面は狭く大小の石がゴロゴロしていた。

この地方の岩盤はもろく、崩れると鋭利な形状で落ちてくる。

谷側への転落リスクもあり、さらにタイヤのパンクも懸念された。

大抵の作業道は行き止まりになっていて、そこは回転場になっていた。


誰も来ることはないだろう回転場で、よく昼休憩をした。

今回の相棒は歴史が好きらしく、僕に歴史漫画を持って来てくれていた。

その漫画は、とても古臭く味のある絵柄だった。

僕はこの漫画のファンとなり、他県まで聖地巡礼に赴くほどだった。


昼休憩が終わると、先程の悪路を戻り、また次の悪路へと向かう。

ある時、作業道でキャンプチェアに座り、鳥かごを持参して鳥の鳴き声を楽しんでいる人たちがいた。

何とも風流な人たちだ。

おじさんたちは立ち上がり、慌てたように近づいてきた。

パンを差し出されたが、僕たちはそれを断りGPS観測を続けた。


会社に帰る道すがら、ぽつりと相棒が口を開いた。

「さっきのあれ、メジロ泥棒だよ」

その言葉で、やっとおじさんたちの反応に合点がいった。

しかし、その犯罪の真偽は明らかではない。


終業30分前に会社に戻り、GPSで観測したデータをパソコンに移す。

すると、3D CADのソフト上に座標を持った、点が表示される。

右に左にうねる点を結びつけて、作業道の形を作り出す。

地図上にそれを表し、達成感の中でその日の業務を終える。


たくさんの路線を回り、分厚い報告書ができた。

役場からもお褒めの言葉を頂いた。

内緒にしていたが、相棒は実は測量経験者だったのだ。

今回も人に恵まれ、いい経験ができた。

満期を迎え、またこの測量会社を去ることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る