測量業(竹刈り編3)
測量業は、年度替わりに仕事がなくなる。
国の予算の関係らしい。
個人社長の会社も例外ではなく、僕の働き口はなくなった。
以前お世話になった測量会社の社長から、また携帯電話に直接連絡があった。
「竹を切りたいから、ちょっと手伝ってくれ」という依頼だった。
「ちょっと手伝ってくれ」というレベルではないことは分かっていたが、仕事を探していた僕に、断る理由はなかった。
いつもの竹刈りである。
いつものように現場に向かい、いつものように作業を行った。
勝手知ったるこの業務において、社長にひとつお願いをした。
「もう長いこと働いていない兄も、一緒に竹刈りに参加させてもらえませんか」
事情を知っていた社長は、静かに
個人社長のもとで測量作業を覚えた僕は、毎日、測量現場に呼ばれた。
そのため、兄には一人で竹刈りに行ってもらうことになった。
しかし、年度末である。
測量現場の仕事は次第になくなり、社長と話す機会がつくられた。
兄は二日で、黙って来なくなったらしい。
それでも、兄は毎朝出勤するように家を出ていた。
お金が無くなり、借金するまで兄は辞めたことを家族に話さない。
そんなことを繰り返し、もうこれで何回目かも覚えていない。
竹刈り仲間もみんな事情を知っている。
僕が毎日、測量現場に呼ばれていたのは、会社のみんなの優しさだった。
社長には、「まぁ、そういうことだ」と告げられた。
僕は、また無職になった。
会社にも仲間にも兄にも申し訳ない。
僕の勝手な判断が、みんなに嫌な思いをさせてしまった。
こうして、5度お世話になったこの測量会社を辞めることになった。
何度もこの会社に戻って来た僕を、みんなはそのたびに笑って迎えてくてれいた。
どれほど感謝しても足りないほど、お世話になったはずなのに、恩を
その後悔と自責の念が、じわりと胸の奥を締め付けた。
もうこの会社に呼ばれることはないだろう。
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