第4話 拗れの結果
どんな反応を見せるのか。
夏の計画を立てる?
意図を汲み取り内心で小首を
それに加え、もちろん本人にその意図はなかったはずだがある営業テクニックが俺の中で成立してしまっていた。
イエスセット。一貫性の法則に基づく心理手法。
単純質問で複数回イエスと言わせた後には本命の質問に対しイエスと言いやすくなるというものだ。
相談に乗る。仕事の話じゃ無ければ。
その二回でしかなかったが、とはいえ今の俺の心理は思いの
「いいよ。夏の計画、だよな」
「えっ。いいんですか?」
長い睫毛を
「って、聞いてきたお前が驚いてどうするんだ」
「だってそんな簡単に頷いてくれるとは思ってなかったから。一応聞きますけど、分かった上でオーケーしてくれてるんですよね?」
「たぶん……。夏の計画だし、祭りだろ? あと花火、ほかは海とかプールとかか?」
指を折り始めた俺になにやら
「ほんとだ。実は私、先輩は
「まあたしかにお前と会った当時なら多分そうだったろうな。でももう今更だろ? 誰かに会ったとして、一人寂しく転勤してきた同郷の面倒を見てるって言えばその場はなんなり凌げるだろうしな」
「そっかぁ。つまりなんだかんだ言って先輩もこの時間を楽しんでくれてるってことですね?」
「まあ、そりゃあな。そうじゃなきゃこうも頻繁に一緒には飲まないだろ」
「うんうんっ。ですよね」
髪をさらさらと揺らしながら嬉しそうに首を縦に振る彼女を横目に俺はグラスに口をつける。
逆に
「先輩って不思議な人ですね」
「なにが?」
カウンターに並ぶ俺たちは二人とも前を向いたまま。
どこを見るでもなく。
「今まで会った人は大抵一緒に飲んでるとすぐそういう感じに持っていこうとしてきたんですけど。先輩からは少しも邪な感じがしないんですよね」
「それは
相変わらず肘をつけたまま顔だけを向けてくる
「転勤して数年は俺も
「だから今になって急にマッチングアプリを始めたと」
実は少しだけニュアンスが違うが。
だけど何も言わず頷いて返した。
「
「先輩。それ、自分が戻らない
「そうかもな」
空笑いをして返す。こればかりは上が決めることだ。
ただ彼女の場合は理由が理由なだけにある時期が来たら退職も辞さないのだろうが。
そうはならないようにしてやらないと。
そんなことを考えていると、急に
「なんだよっ。人がせっかくいい気分で浸ってたのに」
「だって、先輩ってばさらっと彼女が6年もいないこと暴露しちゃうから。自分では気付いてなかったんでしょうけど」
次いで悪戯っぽい目を向けられ「うっ」となる。
いや、なんならずっといないんだが……。絶対からかわれるから言わないでおこう。
「なるほどなるほど。じゃあきっと無精な先輩のことだから
「その通りだよ。笑いたきゃ勝手に笑え」
気恥ずかしくなった俺はグラスをぐっと手に持つとグビッと喉を鳴らす。
「しょうがないなぁ。寂しい先輩のため、この可愛い後輩が一肌脱いであげることにしましょうか」
「逆だろ。そもそもお前が誘ってきたんじゃないか」
なんだよ、嬉しそうな顔しやがって。
そんな風に口を尖らせていると、
予め準備してたんだろう。手には関西のイベント雑誌を持っているようだ。
俺たちの肘が軽く触れる。
同時に、職場では決して嗅ぐことのない仄かな甘い香りが鼻先を
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