第3章

第16話 夏季休暇初日、新大阪にて


 大阪駅から一駅。

 ここ新大阪駅は『新幹線の停車駅』という大義名分のもと、その恵まれた立地を活かし企業がひしめくエリアとしても有名な街だ。


 さすが夏休み盆休みの初日だな。

 ホームからエスカレーターで3階へ昇り改札フロアに辿り着いた俺は目を細めた。


 ちなみに現在は黄昏時だ。

 遅めの時間にしたのにこれなのだから中心ど真ん中の時間帯はどうなっているのだろうか。

 そんな心もちで溜息半分、やっぱ二日目明日にした方が良かったのかもな、などと内心で独り言ちる。


 まあそれはともかくとして、旅のパートナー可愛い後輩はいずこに。

 

 一応JR側の改札内でという大まかな待ち合わせ場所を設けてはいるものの、とはいえ今はまだ待ち合わせ時刻の30分以上前。

 まあ言ってもどうせいるんだろうけどな。とはいえなにせこれだけの人だ。探すのにひと苦労することも必至。


 であればと、実家への手土産を探しつつ合流出来ればいいなぁくらいの気持ちでだだっ広い駅構内を歩き始めたのだが。

 気付いた俺がすごいのか、それとも気付かれるほど彼女の存在感が特別優れているのか、いずれにせよ遠目に久遠ひさとおの姿を見つけてしまった。

 

 しかも珍しくまだこっちに気付いてないようである。


 自然と口角が上がっていた。

 いつもやられてばっかだし、たまには後ろから驚かしてやろうか。そんな子ども染みた茶目っ気が湧き上がる。


 そして身を屈めた……のだが、「?」次の瞬間には彼女を見失ってしまっていた。


 あれ、どこいった?


 きょろきょろと周囲を見渡すもやはりその姿は見つからず、行き交う人のなか棒立ちのままうーむと首を傾げていると、「わっ!!」と背後から両肩をポンと掴まれ肩がびくっと跳ねる!


 振り向くと案の定そこにはしたり顔の久遠ひさとおが。


「びっくりするじゃねえかよ。お前は子供かっ」


「それはこっちのセリフでしょ? 私のこと驚かそうとしてた癖に」


 お見通しですよ。そんな表情を向けられ「うっ」とたじろぐばかり。


「というか、いつも先輩のことを探してる私の目をあざむこうなんて百年早いんですよ。言っときますけど私くらいになると先輩が駅に着いた瞬間ときには既に気付いてるんですからね?」


「ん、んなわけないだろ」


 ツッコみを入れつつもまんざら嘘だと言い切れない自分が恐い。もしかして俺、GPSでもつけられてる?


 今日の久遠ひさとおは青のロングスカートに白のノースリーブを合わせサンダルというカジュアルな装いだ。

 加えて珍しくショルダーポーチをたすき掛けしていることもあり、両手を後ろで結んで自慢げに胸を張った拍子にふくよかな胸が双丘になっていて目に毒である。


 仕事の時は多分敢えて隠してるんだろうが……。実はこいつ、かなり大きいんだよな。


 って、あんま見てたらまたからかわれちまうな。


 そう思い誤魔化し半分、俺は視線をギフトショップへと向けた。




 その後、二人で手土産を選ぶことに。


「結構買うんだな」


 久遠ひさとおの腕に掛けられた買い物カゴには溢れんばかりの土産物が。

 一方の俺は実家用の一つだけでカゴにすら入れていない。


「うち親戚が多くって。そうそう、これも買っておかないと」


 そう言って彼女が手に持ったのは、


「いや、なぜに白〇恋人? お前はどこから帰るつもりなんだよ」


 そうは言いつつどこにでも売ってるよな、白〇恋人。


「妹が好きで。これがいいってうるさいんですよねぇ」


 久遠ひさとおはやれやれといった苦笑いを浮かべながら最大サイズの白〇恋人をカゴに迷いなく積み重ねた。


「妹さんがいるんだな。何コ下?」


「二コ下です。今は大学生で。最近はあまり言われなくなりましたけど昔はよく似てるねって言われてたものですよ。性格は全然違うんですけど」


「へぇ」


 だったらさぞかし美人なんだろうな。

 そんな想像を巡らせていると「気になります?」と久遠ひさとおが隣から覗き込んでくる。


 って、なんでジト目なんだよ?

 よく分からんが……ここは触らぬ神に祟りなし一択といったところだろうか。


 俺は「いや別に」と、それ以上この話題には触れないことにしておいた。


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