第21話:流れる車窓と後輩の提案

 土産物を買い終えた俺たちは、その後夕食(とは名ばかりのアルコールのたぐい)を手に、無事目的とする車両へと乗り込んでいた。


 京都駅を通過した頃合い、車窓にはうっすらと反射する久遠ひさとおの整った鼻筋横顔と茜色に染まりゆく街並みが流れている。


 あと三十分もすれば日も落ちて、点在する光のなか彼女だけが映し出されていることだろう。


 豆知識と言えるのかどうかはさておき、新大阪が始発の東京行きのぼりは列車番号200~400番台が目印だ。 


 つまり俺たちが合流した17時以降に限って言えば一時間に一本のみ。


 遅めの出立が功を奏したのかそれとも皆が意外と知らないだけなのか、18時ジャストの乗車を目標に数本やり過ごした頃には俺たちはほぼ列の先頭に並んでいた。


 それなのにもう待ちきれないとばかり缶ビールのプルタブに指を掛けようとした可愛い後輩がどこぞにいたのはここだけの話だ。

 

 その後、俺たちは例年ニュースでよく耳にする120%だとか140%を越えるという乗車率を目の当たりにすることに。


 ある種すし詰め状態の車中。窓際に座らせた久遠ひさとおの隣りで彼女に封をするも、その俺まで封じるかのように新婚らしき若めのカップルが立ったままで乳繰ちちくり合っている。

 

 今から最大で二時間半もの間、彼らはこの状態で列車に揺られるのだろうか。どうかやめてほしいものだ。


 そんな懸念を解消すべくアルコールを身体に注ぎ込むと、同じく缶にちょびっと口をつけたまま申し訳なさげな表情かおをこちらに向けてくる後輩に気が付いた。


「どうかしたか?」


「いえ……。ほんとに東京終点まで一緒に来てもらっていいのかなぁ、と思って」


 特急券は彼女と同じく東京まで買ってある。

 神奈川に住む俺だ。新横浜で下車すればそこから日吉駅最寄駅までは10分圏内なのだから彼女の心情も理解出来るというものだが。


「いいんだよ、元からそういう約束なんだし。それに当分こうやって一緒には飲めないんだからさ」


 だから今日は少しでも長く一緒に飲もう。

 そんな隠語を懐に仕舞い久遠ひさとおの持つアルミ缶に自分のアルミ缶それをカツンとぶつけたのだが、どうやら彼女の浮かぬ表情かおが解消されるまでには至らなかったらしい。


 「あのぉ、そのことで少し提案なんですけど」そう言うとまるでねだるかのように唇をツンと尖らせ久遠ひさとおが覗き込んできた。


 まさか来るとか言わないよな? 

 そんな心持ちで次の言葉を待っていると。


「明日から日替わりでお互いの地元で飲む、なんていうのはどうでしょうか?」


 なるほど。自分だけじゃなく俺にも来いという算段ことだったらしい。しかも明日からってお前。


「何言ってんだよ。それだと大阪あっちにいる時と何も変わらねぇだろう。たまの帰省なんだ、親御さんのためにも地元でゆっくり過ごしてやれよ」


 体裁を保つべく先輩風を吹かせるも、未だ納得のいかぬ可愛い後輩は両手にアルミ缶を持ったままコテンと頭を俺の肩にもたげてきて、「それはそうですけどぉ」と甘い匂いを漂わせながら見上げてくる。


「でも、一週間もあるんですよ?」


 先輩は寂しくないんですか? そんな声が聞こえてきそうである。

 正直なところ、出来るのなら提案に乗りたいところ。というのも俺自身が一週間もゆっくりと実家で過ごせる自信などないからだ。


 とはいえ……だな。


 会社の先輩として、そしてそこを離れた永瀬蓮実彼女の友人として、少しのあいだ揺られた俺は思考の定まらぬまま口を開く。


「まあ……どうしても暇だって時があれば連絡くれ。気が乗ったら行ってやるから。その代わり、連絡無しでは来るなよ?」


 折衷案としては余りにも久遠ひさとお寄り。というのも俺が彼女の誘いを断れたことなど一度たりとて無いのだから。


 少しホッとした表情でクビっと喉を鳴らす久遠ひさとお

 どうやら一旦は納得してくれたらしい。


 まあこれで流石に今日明日に連絡を寄越してくることはないだろう。

 であれば、彼女の親御さんに顔向けが出来るのか出来ないのか。


 そんなことを考えながら車窓に視線をると、街はもうすっかりと夜に包まれていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る