大阪本社へ転勤中の俺(神奈川出身)、入社1年目の可愛い大卒女子(千葉出身)から毎晩飲みに誘われてます。
若菜未来
第1章
第1話 久遠という後輩女子
関東の大学を卒業し、大阪に本社を置く老舗家電メーカーに勤めて早や6年と3ヶ月。
東京支店の仲間からは「戻って来る時は幹部候補だな」などと
俺、
そんな、女性経験がある意味中学生にすら劣り得る俺を毎晩飲みに誘ってくる入社1年目の大卒女子社員がいる——。
彼女の名前は
入社時の成績はトップ。人手不足の昨今だ、上層部からも相当優秀な人材と捉えられているらしく、大切に育てるようにと直属の上司だけでなく更にその上からも重々仰せつかっている期待のホープである。
梅田。通称キタ。
仕事終わりの俺たちは今日も二人居酒屋で飲んでいた。もちろん彼女からの誘いで。
「で。さっきから先輩はなにしてるんですか?」
私を放っておいて。語尾にそんな言葉がついてきそうな物言いである。
カウンター席。隣に座る
「返事が来たから返しとこうと思ってさ」
「ああ。例のマッチングアプリですか」
「そうそう。ほら、プロフの写真。結構可愛いだろ?」
ふーんと俺のスマホ画面をちら見する
「残念。これ加工してますね。目でしょ。鼻、あと顎のラインもがっつりいっちゃってますね。もちろん美白加工も」
「って……ほぼ全部じゃないかよ……」
「便利な時代ですからねぇ。こうやって生身で会うことの大切さがしみじみ分かるってものですよ」
そう言ってグラスを手にクビっと一飲み。相変わらずうまそうに飲むな。
そういえば喉元アップの飲酒シーンやゴク等の効果音はアルコールなんたら法が出来て以来テレビCMから消えたんだったか。などと思い出す。
「お前はいつの生まれだよ」
そうツッコむと嬉しそうにケタケタと笑う
その可愛さに一瞬怯む。彼女は驚くほどに自然体だ。特に俺と二人でいる時は。
肩越しまで伸びるサラサラの髪。凛々し気な眉は彼女の性格を現しており、もちろん化粧の効果はあるにせよその一見強気そうなのに理知的にも映る二重の大きな目は一度見たものに深い
学生時代はさぞおモテになったことだろう。いや、今もおそらく。
社内でも彼女を狙っている輩は多いと聞くしな。
ちなみに社内恋愛は禁止。それが俺が自分に課しているルールだ。
隠すも晒すも面倒。なにより面倒。すべからく面倒。ただそれが理由。
「にしても先輩って染まりませんね。他の地方出身の先輩方は関西弁を喋ってる人も多いのに」
「喋れるで? なんでやねんっ」
またケタケタと笑われる。
「イントネーション変過ぎっ。それなら私のほうがまだマシですよ」
目に浮かべた涙を指先でちょんとさらう。泣くほど面白かったか!?
「じゃあやってみろよ」
「分かりました。いきますよ?」
「なんでやねんっ」
同時に俺の胸元へ手の甲をびしっと。
「おっ」
「あっ、今の結構良くなかったですか?」
自分でも思いの外上手くいったのだろう。カウンターにちょこんと指先を乗せた
間近で見てもそのきめ細やかな肌感は変わらない。
「たしかに思った以上にセンスを感じたかも。
「ありがとうございます。って、まあパスなんですけど」
「なんで?」
「染まりたくないんです。帰りたいから」
「帰りたいって、東京支店にって意味か?」
会社的には帰るのはここ、大阪本社だが。
首を傾げる俺に、唇を尖らせ言いにくそうにうんと頷く
「先輩は
「今年で7年目、かな」
「でしょう? 私が今22だから、つまり7年後だと——」
指折り数え答えに行き着いた
そんな表情でさえ愛嬌があると思えるのだから美人は特だ。
「今時そんなこと気にしなくていいだろ。このご時世、結婚しない奴だってごまんといるんだし」
「私は気にするんですぅ。出来れば
「じゃあ俺はもう無理だなぁ。来年だし」
「いやいや、まだ間に合うでしょうに。今すぐ作れば、ですけど」
「だから無理だろ」
「……。って、返事。しなくてもいいんですか?」
「あ、忘れてた。サンキュ」
「いえいえ」
俺は視線を手元に戻すと思案しながら文字を打ち込んでゆく。
少し時間がかかると思ったんだろう、
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