第40話:唯一の村で普段通りを

千早赤坂ちはやあかさか村へ到着した俺たちは道の駅にいた。


 山間やまあいのせいだろう。市内より1度2度ほど寒く感じるなか、久遠ひさとおも持参していたロングのカーディガンを羽織っている。


 さすがに露出度の高いミニ(スカート)は寒々しく映るし、そもそも運転中と違い俺もこう手持ち無沙汰だとついそっちに目を遣ってしまうので正直助かる。


 にしても、さすが村というだけあってのどかそのものだな。


 安い安いと真剣な表情かおで野菜を手に取る久遠ひさとおを隣で眺めながら、そういや俺と飲んでない時はしっかり自炊してたことを思い出す。


 まあ、当然といえば当然か。

 週末も会うようになった最近でこそ毎日じゃなくなったものの、それでも俺と頻繁に飲みに行ってるだけじゃなく結構な衣装持ちだし。


 それに転勤組で家賃補助が手厚いとは言え、さすがに入社一年目なんだ。

 どうせ意志の固いこいつに限って実家から仕送りを受けてるなんてこともあり得ないだろうから、自宅ではかなりの節約を要してるのは考えるまでもない。


 でも、そうまでして俺と飲みたいと思ってくれてるんだよな。久遠こいつ


 と、指先に柔らかな感触を感じ。

 どうやら久遠ひさとおが指先を絡めてきたらしい。


「先輩、また難しい顔してますよ?」


「えっ、あぁ。悪い」


 ちなみにまたというのは海の時のことを言ってるんだろう。


 元はと言えばあの時からなんだよな。

 久遠ひさとおのことを強く意識し始めたのは。


 で、あの日の夜俺はこいつに――


「せ・ん・ぱ・いー」


 ハッとして視線を戻すと久遠ひさとおが頬をぷくっと膨らませていた。

 って。怒った顔でも可愛いのは反則だろう……。


 俺は繋いでいない方の手を彼女の頬までもっていくと、人差し指で膨らんだそれをぷすっと押してみる。

 するとプっと空気の抜けたような音が。


「くくっ」


「ひど。怒ってるんですから笑わないでくださいよ」


「悪かったって。ほら、お菓子買ってやるから」


「え。いいんですか??」


「って、そこはノッてくるのかよ?! 逆に今のは子供扱いするなーって怒るとこじゃないのか?」


「だって。買ってもらった方が得ですし。それに私は普通じゃないんでー」


 そう言うとべーっと舌を出す久遠ひさとお

 次いでなにやら異変に気付いたのか「ん?」と俺に向け小首を傾げてくる。


「あれ、先輩。今のはツッコんでくれないんですか?」


「え。あ、そっか。だよな。なんでやねんっ」


「おそっ。というより今のタイミングでなんでやねんはちょっと違う気が」


「たしかに。俺もそう思ってたかも」


「なんですかそれ」


 久遠ひさとおが口許に手を当てながら軽く吹き出し。そんな彼女を見て「こいつ可愛過ぎるだろ」などと思ってしまう俺。


 なるほど。

 どうやら、もはや俺の方が普通じゃなくなっているらしい。


 笑わせることには成功したし今回は良しとして、このままだとそのうち悟られ兼ねないから注意しないとな。


 そんなことを考えながら俺は機嫌を直した久遠ひさとおに手を引かれるまま後を追いかけた。



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