第42話 F16:狼退治 Sterminio del lupo
リネカー師匠は、明日に向かう町に家を持っていた。
西門の北側に個人関係の家々が建っているけど、その一角に集合住宅がまとまって在る。
そこに内弟子ということで同居させて貰った。
部屋にはちゃんと鍵掛かるよ。心配しないで!
シーフの能力は独特だ。敵に対する偵察もあれば、ダンジョンなんかだと
師匠の指導は厳しい。
罠、毒などのアイテム造り、これには採集の職能が居る。人が集めたものを材料にしてもいいけど、やはり素材の判断は必要、ひたすら造って慣れるしかない。
ダガーも強化した。何となくだけど一撃の威力も上がったような気がする。
実戦感覚は常に必要なので、師匠の指導でいくつかの
で、ある日というか、
「おや、インスタンスみたいね。依頼片付けて、町に戻っとくわ」
師匠そんな気楽に……って、ボクは初めてなんだけど
「頑張ってらっしゃぃ!」
師匠の声を遠くに聞きながら、暗闇に落ちて行く。
生命の腕輪から
“インスタンス:狼退治„
草原の中の大きな牧場が続いている所に立っている。
たくさんの牛と羊が草を食んでいる。
「おぉ冒険者さまだ。冒険者さまだ」
村人たちが口々に声を掛け、集まって来る。
「お願いします。助けて下さい」
これがインスタンスか。目的を達成しないと帰れないんだよな。
時間切れってのもあるらしいけど、すごーく時間かかるらしい。
「分かりました。とりあえず話を聞かせて下さい」
インスタンスの題からして狼を倒せばいいんだよな。と思う。
「ここにはサバクオオカミが居ます」
ひとりの村人が説明を始める。
ここにはサバクオオカミが多数居て、家畜を襲って来ることもあったが、それほど大きな被害は出ていなかった。しかしある時、通常より一回り大きい姿のボスと思われる狼が現れて、この辺一帯の狼たちをまとめ上げたようだ。
ボスは指導力があり、狼たちは連携して家畜を襲い始める。奴等は、牛の群を巧みに分断し、少数まで減らしてから一気に襲い掛かる。
特に、ボスは牛の美味しい所だけを食べて他は全て仲間に渡す。
何度か狼退治の専門家を呼んだが、反撃を受けて逃げ帰ってしまった。その中の一人は狼たちに襲われ、噛み殺された。
「その上ですな」
村人が続ける。
「罠を仕掛けても見破られます。また無色無臭の毒を混ぜ込んだ餌を使っても何故か放置されたり、小馬鹿にするようにその辺に放り投げられたりします」
恐ろしく利口な奴だ。
「手強そうな相手ですね。少し相手を観察して、どういう手段が有効なのかを考えたい。時間をいただけますか?」
そう言って、相手となる狼の生態を探り始める。
ボスが何処に居るかさえも分からない。
砂と土が続く丘陵や渓谷を彼方此方と探し回る。
遠くから狼の群を見つけたこともあったがボスの確認はできない。
虚しい日々が数日続いた後、ふと白い毛の狼を見掛ける。若い雌のようだ。
手掛りのような気がして追跡することにする。
更に数日後、白毛の狼の近くに普通より一回り大きな狼を見付ける。これがボスなのだろう。
二匹はじゃれ合うように荒野を走り回る。
遊んでる? 恋人?
こちらに気付かないとは、少し油断をしているようだ。恋は盲目だな。
二匹を観察することにした。村人たちも時間が掛かることを理解してくれている。長期戦だ。
数日の間、余り遠くない所で二匹を見掛ける。ひょっとしたら巣がある?
子狼が居るのなら囮に使える。そう思い付いて巣穴を探す。
勝つ方法はこれしかない。
正面から行ったら、必ず囲まれてやられる。
有利な場所に誘い込もうにも、警戒される。
冷静さを失わせるほどの状況に追い込まないと、勝てない。
砂漠の丘陵峡谷を探し回る。巣は目立つ所にはない。
いた! ボスと白毛の狼。渓谷の片隅、大きな岩の陰。
二匹が掘ったと思われる穴を出入りしている。間違いなく巣だ。
待つ。必ず獲物を探しに巣を離れるはずだ。
日の照り付ける中、数刻経ったろうか、二匹が巣を離れて行く。
焦る心を押さえ、見えなくなるまで潜む。
一気に巣まで走り、スコップで掘りまくる。時間が無い。
狼の巣はそれほど深くはない。せいぜい四メートル程度と聞いた。
奥に逃げ込むのは歓迎だ。声が遠くまで届かないだろう。
巣穴の一番奥に追い込んだ。子狼は五匹、十分だ。
用意していた袋に五匹を詰め込んで引き上げる。
子狼を檻に閉じ込め、罠を造りまくる。材料は村人に提供して貰った。
誘い込む場所に檻を設置、周囲をこれでもかというくらいに罠で固める。
攻撃するために、絶好の位置に自分が隠れる場所を造る。
村人が集めてくれた狼の皮や糞で臭いを消す。
後は待つだけ、待つのは慣れた。
子狼たちは、不安気に声を上げる。
よーしよし、もっと吠えな! 親と仲間たちが来たら皆殺しだ。
鬼だな、ボクは
ボスに率いられた狼たちが集まって来る。
予想通り、罠の周囲でうろうろしているだけだ。
狙うはボス、我慢できずに飛び込んで罠に掛かった処を、集中攻撃で倒す。
その時、白毛の狼が飛び込む。弾けた罠が狼の身体を切り裂く。
それが合図だったかのように、狼たちが倒れた仲間を踏み台にして前に飛び出していく。
お前ら、何を馬鹿なことを!
ボス狼が突撃して来て、檻へとジャンプ!
ここしかない! 狙ってスリングショットを撃つ!
ボスに直撃、罠の上に転がる。複数の罠が弾けボスを捉える。
夢中でスリングショットを連打
はぁ、はぁ
自分の息が他人のもののように遠くに聞こえる。
生き残った狼たちは逃げ出したようだ。
まだ、インスタンスはクリアされていない。ボスは生きてるのか?
注意して近づくと、罠に挟まれ、全身血だらけのボス
こちらを見て、弱々し気に声を出す。
ぅおぉん!
ボス狼は子狼たちを見て、そしてまたこちらをじっと見る。
「わかったよ」
頷くしかない。
檻の中から子狼たちを一匹ずつ取り出し、離してやる。
飛ぶように砂漠の中へ消えて行く。
「さあ、最後の一匹だ。見えるか?」
そっと抱き上げた子狼を離すと、一目散に逃げて行く。
「これでいいな?」
くぅぉん!
ボス狼は弱々し気に吠え声を上げ、満足そうに横たわる。
黄色に煌めきながら消えて行く。天使に呼ばれるように
生命の腕輪の
“インスタンス・クリア:狼退治„
開始時と同じように周囲が真っ暗になって、元の場所に戻る。
第一夜刻に入ったのか、周囲は暗い。
天空を仰ぐと、満月
まだ、
吹く風は冷たい。
インスタンスは時の流れが違うというけど、本当だな。
「狼のくせに……クソッタレは人間だな。おーぃ運営! こんなことやらせるなよ」
重い脚を引き摺りながら町へ向かって歩む。
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