おもしろ夫婦のゲーム・ライフ (改修版) La dolce vita per due giocatori

石動 守

第1話 MF:きっかけは Prologo

 天空から雫が降りてくる。

 それが心臓の真ん中で破裂し、波紋が虹色となって全身に絡みつく。

 ふわふわと、魂が舞い上がり、中心から渦が発生

 心も身体からだも空間に溶ける。

 灰青色はいあおいろの霧の中、意識を破裂させる。

 思わず叫ぶ。

「ゲームがやりたい~~!」


「やれば?」

 冷静な声が返って来る。

 隣には、PC前で仕事をしている夫が居る。

「いや、違うのよ! もっとこう……血がたぎるような……心が燃え上がるような……」

「萌え上がってやれば?」

「いや、それ字ちがう! そうじゃなくて」

 手を握り締めて、頭を振って、イメージを言葉にしようとする。

「何かこう……魂もって行かれそうな……人生捨ててもいいような……」

「魂の叫びか……」

 なんだか納得してくれたようです。

「ふむ、無為にすることはできないな。とりあえず対策を探してみよう」


 そういう訳で私たち夫婦は、現実でもネットでも探し回る。


「うぅむ……見つからないなぁ」

「そうよね。何処かで見たようなものばかりよね~」

「課金が凄いのもあるしな」

「お財布に優しくないのは、問題が……」

「お手軽なものは駄目だよな」


 そう、全身で感じたいのよ。ゲームを!

 生命いのちのやり取りくらいの危機感が欲しいのよ。

 燃え上がりたいのよ。全身全霊で戦ってみたいの!


 ……で、どうやら夫が辿り着いたらしい。

Il Mondo ?イル・モンド

「うん、“世界„ って意味だね」

「どうしてこれなの?」

「情報がないんだよね~、攻略サイトも簡単な基本情報くらいしか記載されてない」

「なんでだろ?」

「全体がかなり広大で、状態の変化も激しいらしい。情報まとめができないんだろうな」

「常に新鮮、一期一会いちごいちえね」

「一応、公式見たんだけど、何か研究データ収集のため無料運営してるらしい」

「ホントに無料なの? 途中で凄い課金あるかも……」

「そしたら途中で止めればいい」

 明るく笑う夫、そうこの笑顔に惹かれた。

「分かった試してみようよ!」

「それじゃ必要なものを揃えようか」


 準備は終わって、開始前に夫と色々話をする。

「一緒に始めるのはいいとして、最初から一緒に行動する?」

「嫌よ! 毎日見てる顔とゲーム内でも一緒とか」

「愛情について、小一時間こいちじかんほど話合う必要がありそうだけど、一緒の行動が制約になりそうだというのは理解した」

「お互いにキャラめいは教えないし、何処に居るのかも知らせない。全くの別行動にしましょ!」

「まぁ、そうすれば、ゲーム内で出会ったとしても、本人かどうかも分からないから、それはそれでいいと思う。でも夫婦生活に重大な影響が出るようなら、そこは相談だね」

「自重します」

 なんだかんだと優しい夫、この人から離れる気はない。その人生だけは捨てないように気を付けよう。


 こうして、私たち夫婦のゲーム・ライフは開始される。

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