第11話 M6:講義と初めてのバトル La lezione e La prima batteglia

「さて、本ゲームの概要を説明する。これから先、ゲームする上で大切なことだ。しっかり理解するように」

 本日から講義が開始された。

 何でゲーム内で勉強とか……二度目の人は避けるよな。

 有難いことに、ラルフ教官はゲーム・システムについて色々説明してくれた。


 1. キャラクタ能力は、内部パラメータであり参照できない。才能は遺伝子データとして保存されており、変更されることはない。一方、経験値は蓄積され、能力アップに寄与する。

 2. カレンダーは、ゲーム開始時から通算で数える。

 3. 戦闘中はバトル・モードとなり、通常の時間進行とは異なる状態となる。

 4 システムは、 256台の連結量子コンピュータ上に多数の仮想コンピュータを展開して処理して……


 全然分からん。

 子守唄みたいで睡魔に襲われる。

「さて、既に昼寝している奴もいるが、次の点だけは確実に覚えておいてくれ!」

 バレてる……


 5:インスタンス

 ある条件下で “インスタンス„ と呼ばれる一時的な状況が発生する。

 周囲の環境とは切り離され、そのキャラクタだけの環境となる。

 いつ発生するかは予測できない。フィールドを歩いているだけで発生することもある。

 拠点の内部では発生しない。バトル・モード中も発生しない。

 パーティ行動中はパーティ全体でインスタンスに突入することがある。

 周囲のキャラクタを巻き込むことがある。


 何か急に発生するクエストみたいなものがあるらしい。

 まぁ遭遇すれば何とかなるだろう。


「ことね! 生きてるか?」

「あー、ミクか。全然ダメだ。頭がウニ状態、こんな面倒なこと覚えられん」

「心配しないで、あたしなんか全然理解できないわ!」

「大丈夫じゃ、せつも全く理解できん」

「特に、システムの説明とか、日本語か? 地球外語extaterrestreとしか思えん」

 教室にある机にうっ伏し、頭を上げる気力すらない。

「実技さえ何とかなれば、良いんじゃないか? 講義内容は生命の腕輪に記録されてるしな」

「え、あの話って生命の腕輪に記録されてるんだ。特にメモしなくていいってのは、そういうことか。スーパー・アイテムだな」


 午後はソロの実戦だ。

 人が少ないせいか、一人に一人の教官が付く。

 わたしの担当は、ラルフ・シュルツ教官だ。

 戦い方の基本から丁寧に教えてくれる。


「女性はどうしても力負けするので、受けるよりも回避をする方が良い。素早く動くことが基本だ」

 ふむふむ、合理的だ。

 普通のゲームでは、この辺は死んで覚えると思うけど、ここでそれをやったら新キャラでやり直しだからなぁ

短剣spada cortaは片手剣なので、それは右手に持つ。左手は盾という選択肢もあるが、君の場合は盾を持たず魔法を使って敵を撹乱するのが良いだろう」

 幸いなことに私は魔法に適性があるらしい。

 火・水・風・地の四属性ともそれなりに発動した。風属性に特に適性があるそうだ。


「それでは、行こうか」

 一通り基本を覚えたところで、いよいよ実戦となる。

 ちょっと緊張する。


 教官の先導で、初めての村の北側出口からフィールドに出る。

 どこまでも続く砂と荒地、所々に灌木、ここは砂漠地帯の真ん中だ。

「初めての実戦となるが、心配することはない。これまでの訓練で十分敵を倒せるようになっている。思い切ってやってみるといい」

「はい!」

 元気よく、応えてみよう。

「手に余るようなら助太刀するので、まず死ぬことはない」

 頷きながら、教官と並んで砂漠を進む。

 と、近くで動く獣らしき影、白と黄茶の毛皮、黒い目。体長は五十センチくらい。

「イエロー・ハムスターだな。一匹だし丁度いい。倒してみろ!」

 前に進んで対峙すると、歯を剥き出し尻尾を地面に叩き付けて威嚇してくる。

 短剣を構えて一歩踏み出すと、跳び掛って来る。

 左に回り込んで避ける。意外に素早い。

炎の球palla di fiamma!」

 火を爆発させて気を逸らせる。

 思い切り踏み込んで、切り掛る。手応えあり!

 敵は一瞬黄色く光って消えて行く。


「よし、上出来だ。今のように、確り当てれば一撃で倒せる。だが、外れたり掠ったりして倒せないことも多い。相手が倒れるまで気を抜かないことだ」

 初バトルは何とかなった。


「それでは、生命の腕輪を見てみろ! いまのモンスターが登録されているはずだ」

 確かに、イエロー・ハムスターが登録されている。姿と特徴――火属性?

「気が付いたようだな。モンスターは属性を持つものが多い。敵の属性に強い属性攻撃をすれば、与えるダメージが大きくなる。この場合は水属性攻撃だな。同属性の攻撃ではほとんどダメージを与えられない。いまの攻撃は敵の気を逸らすために使ったと思うので問題ないが、同属性の攻撃で回復guarigioneする敵も居る。魔法はよく考えて使うことだ」


 ここは砂漠地帯なので、火・地属性のモンスターが多い。なので当面は水と火の魔法を優先させることになる。

「剣に属性はないんですか?」

「その短剣には属性はない。無属性ということだな。属性武器は効果が高いのだが、使い方は難しい。慣れるまでは勧めない」

「分かりました」

「知識は武器なのだ。それを忘れるな。“彼を知り己を知れば百戦殆ふからず„ という言葉は本当に深い真理なのだ。それに続く言葉は余り知られてないようだが、こうだ。“彼を知らずして己を知れば一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば戦ふ毎に必ず殆ふし„ 」

「無鉄砲は長生きしないということですか?」

「あぁ、そうだな」

 渋い笑顔が心に染みる。


 その後、教官と一緒に、黒っぽい毛皮のハネネズミや狐みたいなフェネックを倒して行く。

 夫々特徴があり、攻撃がかわされることも多い。これが群れで来たら、今の自分の能力では対処が難しいと感じる。

「だいぶ慣れて来たようだな。今のやり方で問題ないと思う。戦い方stile di battagliaは人それぞれだ。人はそれぞれ能力も性格も経験も違う。自分のやり方を創り出して行くことだ」


 かなり時間も経過し、そろそろ引き返そうかと相談している時にそれを見つける。

 砂漠の中に少し大きめの岩があり、その上に黒っぽい獣が居る。

「ほう、トビウサギだな。ちょっと面倒かもしれないが、やってみろ! 今までとは違い、色んな攻撃をしてくるぞ」


 教官の指示で前に出る。

 敵が動いたと思ったら、いきなり跳び掛って来る。

 横っ飛びに避けたが、かなりの距離跳べるらしい。確かにいままでとはの敵とは違う。

 トビウサギは距離をとって、軽くステップする。

 砂が舞い上がったかと思うと、石の塊が飛んでくる。

風の壁muro di vento!」

 風の魔法で弾いたが、脚で蹴って石を飛ばしたらしい。こんな遠距離攻撃もして来るのか。


「そいつは無属性だ。属性を気にせず魔法を使え!」

 教官の声、よし遠慮はいらないな。

火の矢frecce di fuoco!」

 数本の火の矢を放ち、追うように踏み込んで、切り掛かる。

 浅いか

 右肩に衝撃! 

 距離を取って何とか踏み止まる。

 キック攻撃まであるのか

 距離を取って互いに牽制し合う。


 さて、どうしてやろうか?

 少し剣を下げて隙を造ってみる。

 敵が飛ぶ!

炎の壁muro di fiamma!」

 誘いの隙なんだよ!!

 トビウサギは、炎の壁に激突して倒れる。

 倒れたトビウサギに短剣を突き立てる。

 悲鳴と共に黄色の光が破裂し、消えて行く。

 ふぅ、何とか倒した。

「うん、上出来だ」

 教官は渋い笑顔で褒めてくれた。


 日が傾いて来たので引き返すことになった。

 夜はまた状況が違うらしい。初めからなかなか大変だ。


 指導所まで戻り、教官からお言葉を頂いた。

「それでは今日の指導はこれで終わる。悪くない成果だと思う」

「ありがとうございます」

 素直に頭を下げておこう。

「何でもそうだが、最初が難しい。死にやすい時期だしな。無理をせずに経験を重ねることだ」

 ここも素直に頷いておこう。今日も危ない所があったしな。

「明日はパーティ戦だが、ソロとパーティの戦い方の差というものを感じて欲しい」


 教官のお話も終わり、今日の指導は終了した。

 教室兼談話室?に行ってみよう。

 みんな戻って来てるかな?


 教室に入るとミクの声

「おお、ことねも戻ったか、どうだった?」

 元気だな~、颯爽と実戦をこなした風だ。

「何とか初戦が終わったって感じかな。トビウサギがちょっと面倒だったけど」

「あたしは怖かったわ~~。夢中で武器を振り回すだけだったわ」

 いや、お前は楽勝だったんじゃないか?

せつは、和本が鈍器というのを初めて知ったわ。確かにかどで叩けば多少は痛いのかもしれんが」

「和本に属性かけられないの? そうしたらダメ出るんじゃない?」

「ほうなるほど、確かにそうじゃな。明日試してみよう」

 まぁまぁとミクがまとめる。

「なにはともあれ、みんな無事に帰って来たんだ。夕食をしながら話をしよう」

「それより、あと二日じゃ。明日は朝からパーティ戦じゃぞ」

「そうか、あの恐怖の講義は終わったのか……残りは実戦だけかぁ」

「そうよ、みんなで頑張りましょ、パーっと盛り上げるのよ」

 みんなやる気十分だな。

 明日からはパーティ戦か、早かったなぁ

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