第10話 M5:初心者指導所 La scuola per novizi

 初心者指導所は冒険者ギルドの北側にあるらしい。

 三人揃って、中央の石畳の道を北へ歩くと、右側に木造りの校舎が見えて来る。

 道の左側には、冒険者たちの、と思われるテント群が見える。

 プレイヤーの個人商店やパーティ募集などがあるみたいだ。

 ただあまり数は多くない。次の拠点へ向かう人が多いのだろうか


 初心者指導所は木造平屋建で、かなり大きい。本当に田舎の学校みたいだ。

 正面中央から中に入ったが、人の気配がしない。

 事務所らしき所も人がいない。


 待っていてもしようがないので、叫んでみる。

「すみませーん」

 声が通路に響く……


 しばらく待つと返事があった。

「おお、来たか!」

 口ひげの渋いおっさんが奥から出て来る。


ラルフ・シュルツRalf Schulzという。ここの教官をやっている」

「その口ぶりだと、私たちが来るのが分かっていたようだが?」

 ミクが尋ねる。

「あぁ、登録所の方から連絡が来ている。君たちはこちらへ来ると思ってな」

「ちょっと待ってくれ、登録所にはもっと人が居たようなんだが、私たち三人だけか?」

「そうだな、二度目以降のチャレンジャーはここをスルーするのさ」

「一度死んでも再チャレンジ? そういう者も多いのか?」

「あぁ、データは引き継がれないがね。心機一転やり直す者も多い。二度目、三度目のチャレンジというのも興味深い」

「しつこいわね~、あたしなんかはすぐ諦めてしまいそう」

 エドはエドらしい。


「しつこさというのも、生き抜く力のひとつだ。苦境に心折れないというのは大事な素質だ」

 教官の渋い笑顔はなかなか似合う。

「さて、こっちに来てくれ。明日から講義をするのだが、その教室だ」

 教官に連れられて、教室へと向かう。ミク、私、エドの順……なんだかこの順序が固定されていくような。


 教室に入ると、一人の女の娘が立ち上がって頭を下げて来る。

 薄桜模様が入った白衣しらぎぬに緋袴――巫女さんだ。

 垂髪ときさげで、手には和本を抱えている。

せつは、如月榛名きさらぎ・はるなという。ご同輩良しなにお願いする」

 これもなかなか濃いキャラだ。先行さきゆきが少し心配になる。


「さて、揃ったところで、最初の注意事項だ」

 聞きやすいテノール声、なかなか良いキャラだな。教官にはもったいないかもしれない。

「諸君は、一週間の初心者指導を受けることとなった。称号 ”冒険者を目指せし者” が付与される。左胸の略綬を見て欲しい」

 見ると略綬が増えている。 ”朱鷺色の地に剣とハートの組合せ” 

「それが、初心者指導を開始した標だ。指導修了時に ”真紅の地” に変わる。卒業生ということだな。さて、今日のところはこれで終わる。お疲れさま!」

「お疲れさま」

「お疲れだ」

 

「明日から本格的な指導に入る。第二昼刻から第三昼刻までは講義、第五昼刻から第六昼刻までが実技となる。各自部屋が割り当てられるので、夜はゆっくり休んでくれ。以上だ」


 部屋は、なんと個室、太っ腹だなぁ

 まぁ人数が少ないせいだろう。最初の頃は混み合っていたんだろうな。


 部屋は、簡素なベッドに机と椅子、実用一点張りだが当面暮らすには不自由なさそう。

 建物の三階部分、窓からの眺めも良い。ここ本当にゲームの中?

と考えていたらドアからノックの音

「ことね! せっかくだから、みんなで夕飯にしよう」

 ミクが呼んでいるので出かけることにする。


 指導所の道向かいに酒場が一軒ある。ここでは一軒だけらしい。まぁ人少ないから

 指導を受けている期間の食事は無料、スタート時の金欠時期にはありがたい。

 居酒屋風で賑わってる。

 これから先、どんな人と巡り合えるか楽しみだ。


 食事は、肉と野菜のスープにパン、メインディッシュは唐揚らしきものと野菜の盛り合わせ。量も悪くない。

 エールも一杯までは無料らしい。


 ミクがエールのカップを持って話始める。

「何はともあれ同期の縁だ。誕生日も同じだしな。それでは乾杯!」

「乾杯!」

 うーん、喉に染み渡る。日本のビールよりアルコール度高いような気がする。


「はるなさん」

「ああ、”はるっち„ と呼んで下され。以前というか、別ゲームでもそう呼ばれていたのでな」

「分かった。はるっち! で、アルコール飲んでいいの?」

せつは、現実では問題ない歳じゃし、ここでは制限などされておらん。まして見掛など全く関係ないではないか」

 そりゃそうか、あ、お代わり頼んでる。

「ほほほほほっ! 明日から頑張るわよ~」

 エドは酒豪らしい。

 なんとも忙しい一日だったけど、明日からも忙しくて、楽しい日々になりそうだ。

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