第18話 M8:鍛冶屋さん La fabbra ferraia

「卒業に乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 みんなの声が重なる。

 ここは初めての村の酒場、打上うちあげ中だ。

 初心者指導所に宿泊できるのは、今晩まで

 名残を惜しんでも問題ない。


「色々あったが何とか卒業だ」

「そうね。色々あったわ~、でもこれからよ~」

「そうこれからだ。私は次の町に向かうことにした。希望の町という名らしい。それでだが、みんな一緒に移動しないか?」

「あたしは、ミクと一緒にいくわ~」

 うぅむ……

「ことね、どうした?」

「なんだかね。自分の力が足りないと感じるんだ」

「それなら、早く先に進んで、強くなるのが良いのではないか?」

「いや、今の状態ならみんなの邪魔というか、脚を引っ張るような気がする。もう少しここで力を付けて自信を持って次に進みたいと思う」

せつもしばらくこちらに居ることにする。せつは魔法が主なので体力が足りないというか、脆さを感じてしまうのじゃ。こちらでしばらく防御系の魔法を伸ばすようにしたい。この世界では、しぶとくないと生き残れないようじゃしのぅ……」

「考え方はそれぞれよ。自分に合ったやり方がいちばんでしょ。別れてしまう訳じゃないし次の町で会えるわよ」

 ミクとエドは先の町に行くと言う。

 私は、はるっちとここに残ることにする。

 ゲーム・ライフはそれぞれだ。


 翌日、建国2年乾月かわき・つき23日(23/Secco/Auc.02)の朝、私たちは分かれる。

「それでは出発する。元気でな」

「次の町で待ってるわよ!」

 初めての村の北側出口、二人の笑顔に笑顔で応える。

「そうだね。直ぐ追い付けるように頑張るよ」

せつも一緒じゃ、心配はないぞ」

 力強く前に進むミクとエドを、手を振って見送る。

 今は、二人に並べるように頑張ろう。

 

 それからしばらくは、はるっちと村の宿屋に宿泊し、冒険者ギルドの依頼ricercaをこなすことにする。

 依頼はほとんどがエネミー討伐、アイテム収集など、初心者向けの簡単なものが多い。

 朝は第一昼刻から第三昼刻までは依頼を進め、一度村に戻って確認する。

 依頼を達成していれば、報告して報酬を得る。未達成なら、第四昼刻から残りを処理する。

 時間に余裕が出来れば、付近のフィールドで経験を積む。

 慎重の上にも慎重に進める。“焦らず実力ちからを溜める„ が合言葉だ。


 生命の腕輪にも種々の情報が集まって来る。

 敵の属性や攻撃方法、生育場所や群行動などなど。同じ敵と戦う度に情報が集まる。

 ドロップ・アイテムは皮や肉が多い。どんなものかレアなのか、未だに良く分からない。

 収集可能なアイテムは、食用植物や鍛冶の材料になる鉱物など、中には高額なものもあるらしい。

 一度大型の蛇に出会ったが逃げた。逃げるのも作戦……ということにしておこう。


 多くの敵と戦う間に気付く。

 ここのモンスターたちは一匹ずつ個性持ちだ。時々、全く同じに見えても妙に倒し難いことがある。

 見掛けだけで強さを判断すると痛い目に会う。

 

「今日も終わったね」

 冒険者ギルドで、依頼ricerca完了報告をして、ドロップ・アイテムを売る。生活しながらだけど、少しずつお金も溜まって来る。

「そうじゃの、ここまでは順調じゃ。拙は……」

 はるっちは何かを考えるかのように、頭を少し傾ける。

「次の町に進むには、まだ何か足りないような気がするのじゃ。明確な前衛が居ないというのもひとつの原因だとは思うのじゃが……」

「それでだけど、一度夜間戦闘をやってみない? そのために前衛を探そうと思うんだけど」

「ほうほう、次の町までは三日ほどと聞く。そうなると途中の野宿campeggioは必須になる。夜間の戦いに慣れることも必要じゃな。それでどうするんじゃ?」

「ギルドで募集ということも考えたけど、怪し気なおっさんが来ても困るしねぇ」

「確かにそうじゃ」

「で、ちょっと心当たりがあるんだけど」


 宿屋の南側に拡がる空地に、いくつかのテントが点々としている。

「ここは何じゃ?」

「えとね。ここのテントは、直接他のプレイヤーとアイテムの売買をする人たちのものらしい」

「ほぅほぅ」

「他の町では、そういう売買を委託するところがあるらしいんだけど、この村にはないらかね。しかも、委託には手数料が掛かるらしいし」

「なるほど」

「この中に、女性の鍛冶屋さんが居るって聞いたので、その人に前衛をお願いできないかと思って」

「確かに、鍛冶屋なら腕力も体力もありそうじゃし、アイテム関連にも詳しそうじゃ。なかなか目の付け所が良い」

 誉められたのだか、なんだか


「ここじゃないかな?」

 テントの側に小さな木の看板が立ててある。

 夕暮れで少し読みにくいけど、案内文がある。

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 ディアの店

  装備品の修理などをいたします。

  鍛冶に関連するアイテムを買い取ります。

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 可愛い丸文字で書いてある。これはおっさんじゃない。

「いらっしゃぃ!」

 出てきたのは、文字に似合わずガッチリタイプのお姉さんだった。


「自分は、クラウディア・ポルポリーナClaudia Porporinaちょっと変わった名前だけど気にしないでね。ディアって気軽に呼んでね」

 背が高いと迫力あるな。


 テント前に設置してある椅子に座って、テーブル越しに話をする。

「それで今日は何でしょう?」

「修理とかじゃなくて、相談したいことがあって」

 

 ディアと名乗った鍛冶屋さんと色々お話おねがいをした。

 ・前衛としてうちのパーティに入って貰えないか?

 ・アイテム類について色々教えて欲しい。

 ・エネミーや戦い方について、アドバイスをして欲しい。

 ・そろそろ次の町への移動を考えているのだが、一緒に行けないか?


「自分もそれ程知識を持っている訳ではないけど、いいよ。一緒にやってみよう」

「ありがとうございます!」

「感謝するのじゃ」

「二三日お試しでやってみて、上手く行くようなら次の町へ一緒に行こう。パーティは相性があるから、まずそれを確かめないと」

「そうじゃの、お互いどんなことが出来るか分からないし、まずは慣れることかの」

 私とはるっちは、良い前衛を見つけたようだ。

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