第19話 M9:夜間戦闘 Combattimento notturno

この世界イル・モンドでの、自分の誕生日は焔月ほむら・つき23日 (23/Fiamma/Auc.02)、キミたちより二十日ほど早いのか」

 鍛冶屋であるディアのテントの前、これからパーティを組むのだから、お互いについて言葉を交わす。


「始めて、もう一ヶ月になるのかぁ~」

 溜息を吐くように、ディアは話し始める。

「自分ね。次の町――希望の町っていうんだけど。そこへ行ったことあるんだ」


 ディアが初めての村に来た時、経験のある人、つまりキャラクタを創り直した人が何人か居て、この村に居ても意味がないと、何が何だか分からないうちに希望の町に連れて行かれた。

 その人たちから、直ぐに狩に行こうと言われたけど、自分は鍛冶屋になりたいと応えたら、そのまま放り出された。

 その人たちにとっては、鍛冶屋は使うもので成るものではないそうだ。

 所持金も少なく途方に暮れたけど、あちこち聞き回って鍛冶屋を見つけ出し、弟子にして下さいとお願いをした。

 師匠と言われる人は、鍛冶の簡単な基本を教えてくれた後に、最初からやり直した方が良いと、初めての村まで連れて帰ってくれた。

 その後、初心者指導所に入って本当に初めからやり直した。修了した後は、ここで腕を磨いている。


「何だか変な回り道をしたけど、それはそれで面白かった。略綬も “冒険者„ が着けられたしね」

 色んなゲーム・ライフがあるんだな、と聞き入ってしまう。

「キミたちを見て、そろそろ希望の町に戻ろうと思った。きっかけを作って貰ってありがたい」

「スタートからなかなか激しいものだったのぅ。拙たちは、まだまともな方かもしれんな」

「さて、とりあえずは第三祭La Festa terzaまではこちらに居るのが良いと思う。何かイベントがあるかもしれない」

第三祭La Festa terza?」

「ああ、季節の変わり目の祭日だ。この日を過ぎて祈月いのり・つきに入ると、一気に気温が下がって寒さがだんだん増して来る。属性も火から風に変わる」

 そーいえば、指導所の講義で何か言ってたような……

「右胸に着いているバッジのようなものは何じゃ? 拙たちにはないものじゃが」

「ああ、これは血盟クランの標」

血盟クラン?」

「キャラクタ同士の集まり。他のゲームではギルドなんて言ってるところもあるけど、元々ギルドって言葉は “同じ職業の職人が集まって出来たもの„ だから、同業者組合みたいなものよね。ゲーム・キャラクタの集合体なら血盟クランって言う方が元の意味に近いと思うわ」

「なるほど、歴史を持つ言葉の意味は深いのぅ」

「自分は師匠に勧められて、鍛冶職人の集まる血盟クランに入会した。それでここに標があるわけね。デザインはクラン・マスターが決められるんだけど、著作権のあるものはダメ。某企業のシンボルマークが取り消されたこともあるらしい」

「なんで?」

「お金を出していない企業がゲーム内で宣伝するのは許せない! という運営のいかりかも」

 そ、それは……笑うしかない。


「よっしゃあ!」

 ディアの一撃がヨロイトカゲの頭部を砕く!

 トカゲの身体が二つに割れて黄色に光りながら消えて行く。

 ディアの持つメイスmazzaは思ったより威力がある。

回復の霧nebbia di guarigione!」

「ありがとう!」

「拙は、これが役目じゃからのぅ」

 わたしとはるっちは、ディアを加えて近くのフィールドを周回する。同時に冒険者ギルドの依頼ricercaこなす。


 ディアは職能のせいか、様々なアイテムに詳しかった。生命の腕輪にデータが着々と蓄えられていく。

「モンスター・コアがドロップしてるな」

「モンスター・コア?」

 珍しいアイテムにわたしとはるっちの声が重なる。

「モンスターのレア・ドロップだね。本当にたまにしかドロップしない」

 ディアは生命の腕輪のインベントリからコアを取り出して見せてくれる。掌に載せられたコアは、一センチメートルくらいの球体、黄色をしている。

「さっきのヨロイトカゲのコアだ。黄色に光るのは地属性だってことだね」

「属性で色が変わるのじゃな?」

「そうそう、青だったり赤だったりする。無属性のときは白になる。これはみんな装備を造るときに使うんだ。そうすると属性がついたり能力がアップしたりする。必ずそうなるとは限らないけどね」

「ふむ、色々あるんだね」

「そうじゃのぅ、覚えることが多すぎるわ」

「このコアって、どれも同じような感じなら、どのモンスターのか見分けるの難しくない?」

「二人共モンスター・コアは初めてみたいだから、どうやって見分けるか見せてあげる」

 ディアはコアをインベントリに戻して、生命の腕輪の仮想画面schermo virtualeに表示させる。丸い球の中にトカゲの姿が浮かび上がっている。

「なるほど、こうやって確認するのかのぅ。なかなか面白いのじゃ」


 第五昼刻過ぎた頃なので、一度戻って依頼ricercaをギルドに報告する。

「さて、今日は夜間戦闘をしようと思う。これまでは順調だし、連携も取れて来た。チャレンジする時期だと思う」

 ギルド入口近くにあるベンチに座って相談する。昨日から話し合ってきたけど、次の町に向かうためにはどうしても経験しておく必要がある。一日で移動できる距離ではないので、夜には野宿campeggioとなる。 夜戦battaglia notturnaの可能性は高い。

「ぶっつけ本番なんか、避けられない時以外はするもんじゃないよ」

 ディアはとても真面目だった。

「うん、そうだね。 やろう!」

「拙も賛成じゃ。夜の敵は昼間と違うと聞いた」

「初めてだから無理はせずに、近くのフィールドに限定しよう。何かあったら直ぐ戻れるように」

「よし、それでは第一夜刻が始まる頃に、北側出入口の集合だ。アイテムなどは万全にしておいて! 第二夜刻が始まる頃には戻る予定にしよう」

 ディアの言葉に二人とも頷く。


 第六昼刻が終わると同時に日は西に沈んでしまい、一気に暗くなる。初めての村付近は砂漠地帯なので雨はほとんど降らない。水の季節に少しだけ降雨があるそうだ。

 見上げると、夜空にはいつもと違う星々が煌めく。

現実realeでは見られない星だね」

「天頂近くにある四つの星が主星じゃな」

「主星?」

「なんじゃ? 指導所の講義で言っていたではないか」

「ははっ! あれって聞いただけじゃ覚えていないよね」

 ディアは丁寧に説明し始める。


 天頂付近で四角形を形作る四つの星は主星、四つの季節と属性に連動する。

 地の星テラは黄、水の星アクアは青、火の星フォコは赤、風の星ヴェントは緑

 それぞれ、三つの伴星を従える。

 今は、乾月かわき・つき三旬目だから、火星fuocoと三つの伴星が強く輝いている。

 第三祭La Festa terzaを過ぎると、火星fuocoは輝きを失い風星ventoが輝き出す。


「そか、そんなこと言われたような……」

「まぁあまり気にし過ぎることはない。魔法職は結構気になるのじゃが」

 月が西の空に細い弧を見せる。赤い色に染まっている。


「そっちに行ったぞ!」

 星明りの下で敵を見つけ、魔法で先制攻撃する。

水の壁muro di acqua!」

水の球palla di acqua!」

 昼間とは全く違う。

 ハネネズミもトビウサギも活発で動きも素早い。しかも群れて来る。

 普段は雑魚扱いのイエロー・ハムスターも群で襲われると厄介だ。

 火魔法の使用は注意が必要だ。

 うっかり火属性のハムスターやフェネックに当てると回復guarigioneされる可能性がある。

 地属性のハネネズミには火魔法が有効なんだけど、暗闇の中、瞬間的に敵を判断するのは難しい。

 風の束縛legante da ventoで動きを抑えようとしても、なかなか嵌ってくれない。

 回復の霧nebbia di guarigioneは、効果が遅れ気味になるので、危ないと思った時には回復剤pozione di guarigioneを投げる。コストかかるわぁ……

 

 そうこうやりながら、移動するための準備をしていたんだけど

 乾月かわき・つき30日 (30/Secco/Auc.02)、初めての村に居る全冒険者にギルドから声が掛かった。

 第三祭La Festa terzaに何かあるらしい。

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