第38話 M18:草編 Da erba
時が凍る
暗闇の中
淡い光に浮かびあがる男女
まこと近頃
珍しきこともなし
時を重ぬるも 飽きばかり
いつもながらに麗しい
この下人の老人にも
眩しきその姿
あの年寄りも 煩わしい
いつもあらぬ目で
こちらを眺める
何か仕返しを
革の代わりに 草々で編んだ
決して鳴ることのない この鼓
あの年寄りに打たせましょう
爺、爺
何かお呼びでござろうか
いつも傍に置く
この大事な鼓を渡そう
これは見事な鼓
爺はいつも
わが家に尽くしてくれた
その鼓の音を聞かせてくれれば
一夜の
お嬢さまもお人が悪い
この古老にそのような戯れを
戯れにあらず
われの本心じゃ
必ずや良き音を響かせてみせましょう
鳴らぬ、鳴らぬ
打てども、鳴らぬ
老いゆえに耳が遠なったか
儂の心が足りぬのか
面白可笑しゅうて
歳を知らぬのか
果つるまで 置くままに
折しも 閃光煌めき 雷鳴轟く
豪雨 老人を打ち叩く
夜風舞い 熱を奪う
老人 深夜まで唯打ち続ける
つい寝てしもうた
夜も更けた
雨の音も聞こえた気がする
あの年寄りは如何した
既に
偽りを
まこと愚かなものよ
骸の中から 黒き煙立ち上る
漆黒の中 二つの怪しく光る眼
鎌首をもたげ
二つに割れた舌を突き出す
あな恨めしや
儂の心を
一心不乱の恋心
嘲り笑うとは
これは
爺の執念か
この恨み
その身に受けよ
まこと、まこと知らぬ
これは、ただ戯れ
鎌首を二つに割るがごとき
大口を開き 黒雲を
女を襲う
呪うそれのみ
空間が弾ける!
静寂の欠片が 四方に散る
時が解ける 動きが戻る
鎌首を持ち上げ 見下ろして来る
「爺さん もういい」
儂の前に
そこな
受けたる恥辱
晴らしもせずに
逝くるものか
「あれを見な!」
女は笑う、笑う、笑い続ける
長い黒髪を振り乱し
何も観ることのない目を見開く
我を失い 狂うたか
「そうだな……
恨みは十分晴らせたろう」
儂はもう戻れん
このまま悪鬼になって
人を喰らうよりは
いっそ
「あぁ、分かった」
「
真紅の炎が
その身を焼け爛れさせる
最期と 叫び 呻く
有難い、有難い
これで逝ける、人で逝ける
「あぁ、爺さん あんたは人だ!」
腕輪の
“インスタンス・クリア:
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます