第32話 F13:鉱石掘り? Scavatori di minerali

「アルフィ、交代の時刻だ」

 サヤの声に目が覚める。外はまだまだ暗い。

「分かった。直ぐ行く!」

 そう応えて、ごそごそとテントから這い出る。

 少し冷たい風に刺激されて寝惚けから解放される。

「一応砂時計は置いておく。けど、アルフィには意味がないな」

「そうだね」

「さて休ませて貰うけど、日が昇っても起きないようなら、叩き起こして欲しい」

「分かった」

 サヤはひとつ欠伸をしてテントに戻って行く。

 さて見張りだ。注意して周囲に気を配る。

 明け方は “朝駆け„ と言われるほど狙われると弱い時間帯だ。気を引き締めないといけない。

 夜空を見上げると、緑の星が一際強く輝いている。風の季節であることが良く分かる。

 

 太陽が昇り、第一昼刻が始まると急に明るくなる。

「あ、おはよう!」

「おう、おはよう。良く寝た。見張りご苦労だった」

「おはよう。見張りお疲れさま」

 二人共、元気に起き出して来る。

 早速、朝食を用意する。

 昨夜のオリックスの肉の残りを野菜を混ぜてスープにする。

 パンは夫々が準備したものだ。

「昨日は順調だったな。しかし、今日は強敵が出るかもしれない」

「そうだな。町に近づくと状況はまた変わるかもしれん。慎重に行こう」

「向かうは西だね。行こう!」

 野宿campeggioの後片付けをして出発する。

 見渡す限り草原の中、道沿いに西へと進む。


 途中では、これまであまり見なかった敵が襲って来る。

 チャコガエル

 五十センチくらいの蛙。緑地に黒・茶・黄の斑紋、腹は白

 草叢で見難いので、飛び出して来ると、少し吃驚する。

 アポロチョウ

 白っぽい羽に赤い斑紋を持つ蝶のような蛾のような?

 掌二つ分くらいある大きな蝶、ひらひら飛んで来るので、一瞬白い紙が風に飛ばされているのかと思う。

 鬱陶しいのが、カラミツタだ。

 草の間から蔦を伸ばし、脚に絡めて引き摺ろうとする。移動はしないみたいだけど、あちこちに生えてるので面倒で仕方がない。

 

 進むにつれて、草原が途切れ途切れになり、土が現れる。

 小山を越えて見通し良くなった第四昼刻頃、野宿campeggio地らしき場所が見えて来る。

「おう、今日は早めに見つかったな」

「この近くに他の野宿地はないはずだ。少し早いがここで野宿だな」

 かなり広い場所が確保されている。周囲の石垣もボクの背くらいある。

「誰か居るね!」

 近付くと、先客が居た。テントがいくつか張ってある。

 テントの前では、二人の男が向かい合って座っている。

 ひとりは焦茶色の鍔なし帽を被って、白い髭を蓄えたじっさま風

 もう一人は、黒髪で剣を持ったおっさん風

 二人の間には毛布が拡げてあり、何か石みたいなのが並べてある。

「おや珍しい。君たちは町へ行くのかのぅ?」

「略綬からして始めたばかりのようだな。明日へ向かう町に移動中か?」

 二人の声に、先頭に居たゲッツが応える。

「確かに俺たちは、旅立ちの村から明日へ向かう町へ移動中だ」

「ここで何をしてるの? この石は何?」

 質問なら先手必勝。なるべく話をさせて相手の正体を探る。

 じっさま風は少し躊躇っているが、おっさん風が口を開く。

「叔父貴、大丈夫だろう。山賊の偵察ならこんなに堂々と入って来ないと思うぞ」

「確かにのぅ」

 じっさま風がもっそり話始める。

「さて、シーフの坊主、いやいや、この世界イル・モンドでは見掛けは当てにならんが」

「見掛けから “坊主„ と呼ばれたのは二回目だなぁ」

「儂と同じ意見の者が居たのか。それは重畳ちょうじょう

 じっさま風は歯を出して笑う。

「さて、坊主。ここに在るのは貴石きせきじゃ」

「貴石?」

「こういう物は色んな言い方があるが、まぁ宝石より少し安いがそれなりに売れる石と思えば良い。坊主が知っている言葉で言えば、翡翠giada水晶cristallo紅玉髄corniolaなどかのぅ」

「要するに、綺麗な石ってことね」

「まぁそういうことじゃな。石というのは金などと違って価値判断が難しい。それで皆が持って来る石を見て、儂が分類しているわけだ」

「話し中すまんが、先程 “山賊„ と言ったな。ここら辺では、そういうのが出るのか?」

 サヤ、そんなに睨み付けんでも。相手の警戒心を解いて油断を誘うのは常套手段だよ。

「おぅ、そちらの方が当面大切だな」

 おっさん風が応える。見掛けよりは腕が立ちそうな気がする。略綬も一杯着いてるし

「この近くに石を掘れる場所がある。良いものはあまり取れないのだが、割合町に近くて比較的安全ということで、時々こうやって貴石集めに来るのだ」

「なるほど、その貴石を狙って山賊が襲って来るのか?」

「今、三人ほど石堀りに行っているのだが、間もなく戻ってくるだろう。それで今回の分は終わりだ」

「山賊たちも良く分かっておっての、貴石が集まる日を狙って来るのじゃよ」

「良く分かった」

「それでの」

 じっさま風が続ける。

「儂らは明日町へ戻るのじゃが、どうだろう、儂らの仲間と共に護衛してくれんか?」

「味方は多い方が良い。協力してくれるなら少ないが報酬を出すぜ」

「そうじゃの、石を少し分けてやろう。それでどうかな?」

「俺たちもここで野宿campeggioの予定だ。他人のふりをしても巻き込まれるのは確実だな」

 ゲッツは乗り気らしい。

「すまないが、三人で少し相談したいので、待ってくれるか?」

 サヤは慎重だ。

「あぁ、いいぜ。時間はまだある。良い返事を期待する」

「そうじゃ、明日の朝には戻りの馬車が来る。御者に話してみるといい。それなりの料金は取られるかもしれんが乗せて貰えるじゃろう。移動の時間は節約できるぞ」

 で、三人集まり頭を寄せて相談だ。

「俺は問題ないと思うぞ。こちらを襲うのなら、こういう面倒な話はしないはずだ。こちらが疑われそうな状況だしな」

「ボクも問題ない。馬車というのも惹かれるね」

「良し、決まりだな」

 ボクたちは予想もしていなかった護衛任務を始める。

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