第33話 F14:馬車です! Una gita in carrozza

 山賊に対する護衛任務を請負うことになる。

「わたしたちは、まだ初心者が終わったばかりと言っていいだろう。そちらは経験豊富なようだし、色々教えて貰いたい。敵についても何も知らないし、どういう役割分担をすれば良いのだろうか?」

 サヤは、判断が素早いし、いつも合理的だ。

「もちろんだ。協力して貰うのだからな」

 おっさん風が話始める。

「山賊自体は十数人くらいだろう。強さもそれ程ではない。面倒なのは奴等はジャッカルを飼い慣らして使っていることだ。それも二種だな。セグロジャッカルとキイロジャッカルだ」

「属性は?」

「セグロが地、キイロが火だな」

「水魔法か風魔法が良さそうだね」

「後三人は間もなく戻って来るだろうが、みんな生産職でな。鍛冶とか彫金とかだ。戦闘専門は俺だけだ。叔父貴は戦力にならないしな」

「これ、儂とて回復guarigione魔法のひとつは出来るぞ」

「叔父貴のことはさて置き。山賊の狙いはこちらの貴石を強奪することで、殺してしまおうというわけではない。つまり、我々を石収集の手段として使おうということだな。全滅させるより、何度も強奪した方が稼ぎが都合が良いということだな。こちらも敵を倒してしまう必要はなく、撃退すれば良いのだ」

 なるほど我慢比べだ。

「まぁ、貴石を渡してしまえば直ぐ終わるのだが、それだと何をしに来たのか分からん!」

 いや、おっさん風、笑っている場合じゃないだろ!

「そちらの能力についても聞きたいのだが」

「こちらは見ての通り、弓と槍、そしてシーフだ」

「なるほど、戦闘職が三人が加わって心強い。飛び道具がなかったのでな。有難い」

 ちょっと報酬に駆引きしてみよう。

回復guarigioneグァレンテが間に合わない時は、回復剤pozione di guarigioneを多用することになるけど、実費に対して少し負担して欲しいんだけど」

「よう分かった。石に少し色を付けて渡そう」

 じっさま風、太っ腹だ。

 

 貴石収集に行っていた三人も戻り、総勢は八人。まぁじっさま風はテント内で石の見張りをしてもらうので、実質七人だ。

 見張りは強化することにした。

 最も危ない時間は第一、第二夜刻ということで全員待機

 第三夜刻から第六夜刻は半分ずつ休むことにする。


 第一夜刻、最初から明々とした篝火かがりびを焚いて、こちらの準備は十分ということアピールする。

 後方は石壁で大丈夫だと思うが、万が一破られたら魔法職で対応する。

 テントの周囲は土魔法による障害物で固めた。

 第二夜刻の頃だった。

「なかなか来ないね」

「来ないに越したことはないぞ!」

「アルフィ、フラグ立てるようなことは言わないでくれ!」

「ごめん、気を付ける」

 と言ったまさにその時、おっさん風の声

「来たぞ!」

 あちゃ~、変なことを言うんじゃなかった。

「配置は打合せ通りだ!」

 おっさん風と二人が前方に出る。ゲッツも加わった。

 彫金職のひとりが魔法使えるということで後方警戒に当たって貰った。

 サヤとボクは遠距離武器で敵の牽制だ。

 ダメージに備えて回復剤pozione di guarigioneを十分に準備している。

 篝火の中、犬影が襲って来る。

 サヤは、待ち構えていたとばかりに連射で攻撃。何匹か倒れたみたいだけど暗くて確認できない。

 ボクもスリングショットで応戦する。

 合間を縫って飛び掛かる犬影を前衛が叩き落とす。

 ゲッツも頑張っているが、おっさん風つぇぇ~


 その後、山賊たちも何度か攻撃してきたが、跳ね返し、十分反撃はした。

「よーし、退却したようだな」

 おっさん風の声に一安心、後方も破られないた。

「やはり戦力が揃っていると守りも楽だ。協力に感謝する」

 それから先は二交代で奇襲に備えたが、敵は不利を悟ったのか攻めてこない。

 

 夜が明ける。

 協力して撤収を始める。昨夜はあまり寝てないけど、馬車に乗るのでそこで眠れるよね。

 第一昼刻、予定の馬車が到着した。

 二頭立ての確りした馬車だ。馬も何だか強そうだ。脚も太いし、農耕馬を大きく居たような感じだ。でもホントに馬?

四輪馬車carrozzaと言われる型式tipoだな」

 サヤ、詳しい!

「すまない。じっさまから聞いたのだが、何とか町まで乗せて行ってくれないか?」

 サヤは御者と値段交渉を始める。

「これ! じっさまとは何じゃ」

 聞こえなかったことにしよう。

「屋根の上の荷物置きならいいぜ。料金も安くしとく」

 サヤがこちらを向いたので、頷いて返す。ゲッツも頷く。

「よろしく頼む」

「じゃぁ上に登りな!」

 御者の指示で、三人とも這い上がる。

「おおぅ、良い眺めだ!」

「ホントだね。楽しい旅になりそう」

「周囲を気にする必要がないだけでも有難い」

 じっさま風、おっさん風と残りの三人は馬車の席に乗り込む。

「それじゃあ出発だ。落ちないように注意しろよ」

 馬の足音と共に馬車はゆっくり進み始める。

「ははっ! これは楽だ」

「思ったより揺れないね」

「スプリングの歴史は古いからな。現在ある自動車のスプリング技術に直結している」

「へぇー、そーなんだ」

 馬車は “飛ぶように„ という形容詞が付くほど軽やかに走る。

 周囲の景色が次々に移り変わる。歩くのとは大違いだ。

 二刻余り、どこまでも続く草原の中、町が見えて来る。

 石造りではなく、継目の見えない確りした壁で囲われた、かなり大きな町だ。

「壁は石積みじゃないよね。何だろう?」

「コンクリートだな」

「ほう、なかなか立派な町だ。期待が持てる」

「コンクリートって、こんな古そうな町なのに」

「何を言う。コンクリートは、現実realeでも紀元前から使われているぞ!」

 え、そんなに歴史古いんだ。ひとつ知識が増える。


 建国2年祈月いのり・つき5日(5/Preghiera/Auc.2)第三昼刻、明日に向かう町に到着

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