第26話 M11:希望に向かいます! Mi dirigerò verso speranza!

 明けて、祈月いのり・つき2日 (2/Preghiera/Auc.02)、涼しさが増して来る。

 第一昼刻、北側の広場に三人集合


 希望の町へ!

「さー行くぞ!」

「ちょっと待て、ことね! 準備は良いのか?」

「そうじゃ、焦っても良いことはないぞ」

 元気よく次の町に向かって出発しようとしたんだけど出鼻を挫かれる。

「とりあえず、朝食をやっつけながら確認しよう」

「腹が減ってはいい考えは浮かばんからのぅ」


 初めての村に一軒だけある酒場兼宿屋で、三人一緒に朝食にする。

 うん、朝ご飯は大事だよね。


「ことね、落ち着いたか?」

「うん、ははは」

 乾いた笑いしかない。

「さて、これが希望の町までの地図だ」

「ほぅ、結構詳しいのぅ」

 ディアが開いた紙を覗き込む。道と地形が記入してある普通の地図だ。

「でも、これがあてにならないんだ」

「「えっ!」」

 わたしとはるっちの声が重なる。

「地図の出来が悪いの?」

 ディアが怖ろしいことを言う。地図があてにならない?

「この世界は地形が一定じゃないんだよ」

「いやいや怖ろしいゲームじゃのぅ」

 状況が変化するというのは本当だった。

「移動の度に道や周囲のものが変わる。以前の知識・経験がそのまま生かされる訳じゃない。そこが難しい」

「いきなり吹雪とか、環境激変とかないんでしょ?」

「まぁ聞く限り全く変わってしまうことはないらしい。拠点の位置関係や道程なんかは心配はないようだ」

「全体で三日の道程という基本は変わらんのじゃろ?」

「途中には補給品を入手できる所はないようだし、余裕を見て準備する必要があるね」

「食料は五日分もあれば十分だろう。途中でモンスターの肉がドロップするし、少ない植物だけど食べられるものもあるらしい」

「そうすると薬剤pozioneを多めにした方がいいかも」

「だいたい一日で進める距離の所に野宿campeggioしやすい場所があるのが普通と聞いている。自分が移動したときもそうだった。一日目はそこに辿りつくことを目標にしよう」

「分かった!」

「今回は移動が目的なので、戦いは極力避けて道沿いに行くことにする。いいよね」

「“二兎追うものは一兎も得ず„ じゃ。まずは移動することじゃな。後は向こうに着いてからゆっくり考えれば良い」

「“初心者用イル・モンド概説„ は、二人共読んだかな?」

「指導所で貰ったやつじゃな」

「生命の腕輪に入ってる。色んな情報があるから、ボチボチ見て行こうよ。先まで有効みたいだし」

「よし! それぞれアイテムを準備して北門前に集合、いいよね」


 道具屋と装備屋を回って役立ちそうなアイテムを買い漁る。

 火炎剤pozione di fiammaとか水球剤pozione di acquaとか攻撃型の薬剤pozioneが売っていたので買い込む。

 季節が変わり、気温も下がって来たので防寒対策も必要になる。

 松葉色のマントを購入する。チュニックと同色でなかなかいい感じ。


 北門に行くと、もう二人とも待っている。

「待った?」

「大丈夫じゃ、せつも来たところじゃ」

「いいみたいだな。防寒にも対策してるみたいだし」

 そういうディアも確り厚手のコートだ。

 はるっちも見栄えのする薄臙脂うすえんじ色の上着を着ている。

「はるっちの上着はなかなか良いね!」

「これは羽織と言うてな。着物用の防寒着じゃ。千早ちはやは神楽用じゃからの、防寒には向かん」

「防寒防熱には、結界barrieraとかあれば便利なんだけど。あれは習得に時間が掛かるらしい。でも早めに覚えた方が良いと思う」

「そうじゃのぅ、せつのような魔法職には切実じゃ」

「死亡即退場だから、辛いよね」


 北門を通って、フィールドに踏み入る。

 見渡す限りの砂丘が続く。

 意気込んで出発する。どんな場面scenaがあるのだろうか?

 前には土の道、幅は馬車が通れば一杯になるくらい。

 振り返ると初めての村の簡素な出入口が見える。

 心の中でそっと頭を下げる。ありがとう、わたしのゲーム・ライフ出発の地


 先頭はディア、わたしが最後尾、はるっちは真ん中

 警戒しながら進むが、村が見えなくなった頃

 はるっちが何度も後ろを振り返り、首をかしげる。

「はるっち、どうしたの?」

「誰かがついて来てるな」

「自分もそう思う。村を出てから一定距離でずっとついて来てる」

「ストーカー?」

PKプレイヤー・キルを狙ってる可能性もあるな。相手は一人のようだが、このままだとモンスターに出会った時に後ろも警戒する必要になる。そんな不利な状況にはしたくないな」

「それでは、ここで迎えて、話をした方が良さそうじゃな」


 三人とも立ち止まって警戒態勢を取り、相手の近づくのを待つ。

 その男は、ちょっと細身で魔術師風の服にコートを靡かせている。

 彼はいきなりビシっと指差して言う。

「ちぃーっと待ちな。お嬢さん方!」

 何だこいつは?

「あんた誰? 何者?」

「そう邪険にしなさんな。怪しい者じゃない」

「怪しさが服を着ているような奴に言われても説得力がないぞ」

「だいたい何で私たちをつけてくるの?」

 彼は、ふっと髪を掻き上げながら応える。

「ワイは、古地三郎ふるち・さぶろうや。サブって呼んでくんな」

「そんな奴は……」

 ”知らん” と言おうとした時、一瞬で周囲が暗くなる。

 再び明るくなったとき周囲の状況は激変する。

「何これ?」

「インスタンスだ。腕輪を見ろ!」

 ディアが叫ぶ!

 言われて生命の腕輪を見る。確かに表示されている。

 ”インスタンス:マスター・スライム討伐”

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