第15話 F6:チュートリアルです! Il tutorial!

「………」

 講義とか止めて欲しい!

「おい、アルフィ! 大丈夫か?」

「ゲッツか、死にそう……こんな面倒なシステムとは思わなかった」

 机にうっ伏し、席から立ち上がる気にならない。

「そうだ、気にすることはないぞ、わたしも全然理解できん」

「サヤ、慰めはいいよ。この世界でやって行けそうもない」

「悲観するな。まずは実技だろう。戦闘battagliaこなしながら知識を増やしていけば良い」

「心配はないぞ! 俺も全く分からんが、生命の腕輪に記録されている。後で見直しながら覚えて行けばいい」

「ああ、これって生命の腕輪に記録されてるのか、万能だなぁ」

「アルフィ、しっかりしろ、次から実戦だ。気合入れないとケガをするぞ」

「そうだった。これからソロの実戦だった」

 気を取り直して集合場所に向かう。


 三人とも別々の指導となる。

 指導教官も得手不得手があるらしい。


「さて、行きましょうか?」

 ボク担当のレア・リネカーLeah Lineker教官だ。

 美人かつシーフのベテランだ。

「よろしくお願いします!」

 元気よく応えて置こう!

「とりあえず自由にやってみて、指導はその都度するから」

 話をしながら、広場の左端から、西側へ出る。


 幅広い土の道がずっと続く。

 左側は木が立ち並ぶ森林地帯、右側はどこまでも緑の草原地帯

「ふふっ、面白いでしょ。ここは森林と草原の境目。色んなモンスターたちが居るわ、慣れるには絶好の場所。近くはあまり危険なものはいないわ。でも気を抜かないで、ケガをするわよ」

「色んなってどんなものです?」

「獣、昆虫、爬虫類……植物もいるわね。属性もいろいろ、でも火属性はほとんどいないわ。簡単に言えば、飛んでるものは風、生い茂っているのは地、湿地に居るのが水ね。例外はたくさん、属性は難しいわ。ひとつひとつ覚えて行くしかない。見た目だけでは騙される」


 鋭い羽音を立てて、黒と黄の縞模様を持った昆虫が飛んで来る。

「最初はオオスズメバチみたいね。一匹みたいだし、とりあえず戦ってみて! 痛い目に会って覚えるのが一番」

 踏み出すと、オオスズメバチは威嚇しながら近寄って来る。

 石の連弾attacco di pietreで小石を弾き出す。ハチは躱すが、連続して小石を弾く。

 ハチが気を取られている隙に、ダガーpugnaleで一閃

 二つに割れ、黄色の光を放ちながら消えて行く。

「まずまずかしら……戦い方stile di battagliaは人それぞれだけど、悪くないわ」


 戦い終わって直ぐに、前方から二匹のトンポが襲ってくる。

 透明の羽、鋭い顎、大きさは一メートルくらいか

「次は、オオヤンマね。二匹いるわ。複数相手にどう戦うか、見せて」

 敵の接近に合わせて跳ぶ。

 一匹の羽を根元から切り落とし、返す刀でもう一匹に首を切り裂く。

 片方が消えて行く間に、地面に落ちたもう一方にダガーpugnaleを突き立てる。

 よし! 二匹とも片付けた。

「なかなか良いわ。戦い慣れてる感じがするわね。ゲーム歴が長いのかしら?」

「はい、前もシーフやっていたもので」

「後ろ!」

 振り向くと二メートルくらいの高さの植物が口を開いて襲ってくる。

 右に飛んで躱し、受身を取りながら魔法を放つ!

炎の球palla di fiamma!」

 敵は炎に包まれ、黒く変色しながら崩れ落ちる。

「フタバアケビよ。ああやって急に襲ってくるの。火魔法は良かったわね。植物は地属性が多いから最初に試してみるのも良いわね」

 油断できない。

 連戦して消耗した時に襲われるのは危険だ。

 もし、敵が連携して来たら――と考えて少し冷や汗が出る。

「シーフは正面から戦う職ではないわ。ナイフを投げ、暗器を使い、罠に誘い、毒を撒く。姑息といってもいいわね。敵を不利な状況に追い込み、こちらはより安全な所から襲い掛かる。意表を突くことこそシーフの戦いだわ」


 警戒しながら歩いて行くと、草の間から五十センチくらいの緑の蛙が顔を出す。

「ミドリドクガエルね。そいつは毒持ちよ。注意して!」

 注意を聞く間もなく、襲い掛かる。

 舌を伸ばして来る。左脚に掠る。

 全身に衝撃! 毒か。迷うことなく解毒剤pozione disintossicante発動

 薬剤pozione瓶が頭上で割れ、緑の液体が散る。

 解毒disintossicante完了。危ない危ない。

 敵の位置に石礫攻撃、躱されたところに投ナイフを二本!

 一本命中、ダガーpugnaleを構えて突進

 すれ違い様に脇腹を切り裂く。

 破裂音と共に敵が消えて行く。

 よし、やった。

「うん、上出来。判断もタイミングも悪くない」

 教官、誉めてくれたんだよね。

「十分というか、十分過ぎるわね。もうこの辺はソロで歩き回っても大丈夫だと思う。でも、油断は大敵よ。このゲームは何が起こるか分からないわ。慣れは慢心と思って注意してね」


 教官からの指導を聞きつつ、敵を倒して行く。

 これまでやって来た他ゲームと共通している所もあり、無理することなく進む。

 日が傾いて来て、残時間も少ないということで、引き返すことにする。


 教官は帰り道に、冒険者としてだけでなく、シーフとしての基礎を色々教えてくれた。

「まず魔法に頼らないこと。あくまでも補助で使うべきね」

 魔法を使うと目立ち過ぎるという面もある。シーフには不利だ。

 野宿campeggio戦闘battagliaだけでなく、シーフの心構え、パーティ内の立ち位置、アイテムの使い方などなど、それこそ様々なものだった。特に、隠身おんしんの大切さを強調していた。そう、不意討ちこそがシーフの心髄だろう。

 様々な経験を伝えてくれる。良い教官で良い先輩だ。


「昔々……まだマルチ・プレイヤーというゲームが珍しかった頃」

 ふと、昔話を始める。

「未だ、こんなダイブが出来ない頃よ。みんなでマルチというのが珍しくて、パーティでも何をしていいか分からなかった。制限も多かったしね。それでも手探りでいろいろやったわ。前衛で剣を振り回す人と回復guarigioneを掛ける人は分かりやすいんだけど、その他の職の人のスキルとか全然分からなくて大変だった。でも、楽しかったなぁ、新しいゲームだったし……」

先達せんだつの言葉はためになります」

「先達……所詮は年寄よ。十年ほど遅く産まれれば良かったかしら?」

「十年長生きすれば、良いんじゃないですか?」

「そうね。良いことを聞いたわ。後輩に教えられるとは……まだまだ修行が足りないわ」

 そう、不思議な、夢の中のような話を聞きながら、村へと戻る。

「あなたは長生きしそうね。大胆と臆病、激しさと穏やかさ、そして真面目といい加減。どれも生き残るに十分だわ」

 彼女の笑顔で、初の実戦は終わった。

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