第3話 竜、降り立つ
「完成じゃて」
「お疲れ様でしたあなた」
少しずつ作業をしていき、移住して二日目の夜には満足のいく家が完成していた。
ドラゴン形態と人間形態をうまく使い、4LDKの豪華な家である。
「とりあえず晩飯までゆっくりするかのう」
「そうですね。でも、裏の洞窟はなくても良かったんじゃありませんか?」
「そうか?」
「ええ。もう卵も産めませんし、ドラゴン形態で過ごすことはあまり無さそうですし」
妻のトワイトが寂しいですけどねと笑い、ディランが口をへの字にして唸る。
子供好きで小さいころの息子はもちろん、近所の子供たちをよく構っていたなと思い返す。
そこでコップの水を飲みほしてからディランが口を開く。
「子供はさすがに無理じゃが、なにか動物でも飼うか? 花を育てるのも好きじゃったろ? ここなら静かにできるやもしれん」
「ああ、いいですねえ。ニワトリとかひよこから育ててみたいわ」
「子供好きじゃのう」
まさかひよこからとは思わず、ディランは目を丸くした後、くっくと笑っていた。
まだまだ寿命は長いので、楽しみを見つけることが楽しみといった感じになっている夫婦は新しい生活に思いを馳せる。
「町へ行くか……?」
「空から見ていた時に村があったからそっちから先に行きましょうよ」
「お、さすがじゃな! では明日、早速行こう」
妻のためになら人見知りでも頑張る健気な旦那ディランであった。
――そして翌日
「では行くか」
「はい。お土産はこれくらいでいいかしら?」
「まあ大丈夫じゃろ」
二人は朝食を終えて家を出ると、村へ向かって歩き出す。竜の里でも散歩がてらに山を歩き回っていたのでそれほど苦にはならない。
とはいえ、通常の人間なら『登山』と呼んでも不思議ではない急こう配を、普通の着物で歩いているので人間からすると奇妙でしかないのだが。
「お、見えたぞ」
「早速お話を伺いましょう」
麓の村が見えて笑顔になり、トワイトの足取りが軽くなる。竜の里だと娯楽らしい娯楽はなかったので追放されたのはそれはそれで良かったのかもと思いながら後を追う。
「すみませーん」
「え? ああ、どうされましたか?」
「あの、最近近くに引っ越して来たんです。それでご挨拶をお願いを……」
「あ、これはどうも。へえ、近く……ってどこです!? この辺はこことあっちの王都くらいしかないんだけど……」
村の入口に立っていた男へトワイトが丁寧な挨拶をするも、どこに越して来たのかと驚く男。
「ああ、そうですね。私達はあのあたりに家を建てました」
「山の中、ですか? でもあなたのような美人は危ないのでは……」
「問題ないわい。ワシが居るからのう」
「あ、旦那さん、ですか」
「うむ」
見た目は若く見えるトワイトに旦那が居ることが分かって落胆する男。
特に気にした風もなくディランが話を続ける。
「とりあえず村へ入れてもらえるかのう。ちょっと買いたいものがあってきたのじゃ」
「ええ、武器ももっていないみたいですし構いませんけど。なにを入り用で?」
「ひよこが欲しいの。生き物は飼ったことが無くて」
「ああ、卵も採れるしいいですよね。でもニワトリじゃなくていいんですかい?」
「小さいころから育てたいの」
ウフフとトワイトが笑い、男は顔を赤くする。そこで門を開けて二人を通してくれた。
「ニワトリを飼っているのは小屋があるからすぐわかると思うけど、ここを真っすぐ行ってから広場の近くに小屋がある家がそうだ」
「ありがとうございます」
「助かる」
門の男はニワトリ小屋の場所を教えてくれ、二人はお礼を言いながら中へと入っていく。
「平和そうでいいではないか」
「そうですねえ。大きな村ですけど、少し防衛に不安がありますね」
「うむ」
自分たちのような大きな体があれば柵などすぐに壊れてしまうなと思いながら指定された場所へ歩いて行く。
来村が珍しいのか、歩いていると人々が二人を見てくる。トワイトが笑顔で手を振ると男達は顔を赤くする。
精神的にはおばあさんだが、見た目はかなり若いのだ。
「なんかごつい人と美人さんがいるぞ……」
「どこから来たんだ? 装備もないし……」
村人は二人の恰好を見て不思議だと話をしていた。実際、魔物が闊歩している地上で軽装は死を意味する。
「む、あそこか?」
指定された場所に来ると確かにニワトリ小屋のある家があった。早速トワイトが駆け寄っていき庭にいた男に声をかけた。
「すみません。ひよこを飼いたいんですけど売っていただくことは可能でしょうか?」
「え? おや、どこから来たんだいべっぴんさん。ひよこは居るけど、買いたいって珍しいね」
庭に居たのは年配の女性でちょうどニワトリへ餌を撒いていたところだった。トワイトはにこにこしながら説明をする。
「最近、あの山に引っ越して来たの。この人と二人だけで寂しいからひよこでも飼おうかと思って」
「山……大丈夫なのかい? まあ、旦那は強そうだけど」
「うむ。ワシに勝てる者はそうおらんぞ」
強そうと言われて鼻を鳴らすディラン。
するとおばさんは肩を竦めながら庭に入るように言う。
「何羽くらい欲しいんだい? これだけいるけど」
「ぴよー」
「まあ可愛い! でも始めて飼うしあまり多くない方がいいですよね?」
「そうさね。親鳥も居た方がいいと思うし、この子と兄弟たちでどうだい?」
おばさんは雌鶏を呼び寄せ、ひよこを三匹ほど手元に寄せた。大人しく足元で餌を食べている姿にトワイトは目を輝かせる。
「銀貨7枚でどうだい? むちゃな値段じゃないと思うけど」
「ええっと、申し訳ないですが実はお金をもっていないのです」
「なんだい? それで買いに来たのかい? それは話にならないよ」
トワイトがお金が無いと語ると、おばさんは呆れた顔で返した。
するとディランが持っていたカバンからあるものを取り出した。
「こいつでなんとかならんか?」
「石? ……いや、こいつは!? 宝石じゃないかい!?」
「そうだ。金を使うことのない生活をしていたが宝はいくつか持っているのじゃ。今回はこいつで売ってもらえんか?」
「構わないけど……これ、凄くいい宝石だよ? 一つで金貨30枚くらいになりそうだけど……」
正直、価値などは分からないのでそれでいいなら渡してニワトリを貰うつもりだった。
だが、おばさんは流石に受け取り過ぎだと一度、広場で待つように二人に言った。
「?」
「なにかしら?」
ひとまず二人は広場に移動しておばさんを待つことにした。
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