第24話 竜、来客をもてなす

「いい家屋ですな」

「夫と私で作ったんですよ。ゲストルームもあるんですけど、リヒトが大きくなったら使うことになりそうですね」

「おお……村の家より全然いいわね……」


 モルゲンロートとバーリオはリビングのテーブルにつき、村人はソファに座っている者や許可を取ったうえで他の部屋を見せてもらっていた。

 家屋は小屋と違い木造の平屋で出来ているが、木は良いものを選別し、なるべく広く作っているため村人からするといい家に見える。


「はい、お茶です。お口に合うといいのだけれど」

「ありがとう。ほう、不思議なお茶だな」


 嬉竜草で作ったお茶を見てモルゲンロートが香りを嗅いで感想を口にする。

 そこで以前、飲んだことのある村人がトワイトからお茶を受け取りながら言う。


「陛下、このお茶とても美味しいですよ。前、持ってきてくれた時に飲んだんですけど、体が軽くなった気がします」

「嬉竜草という草で作ったお茶でドラゴン達がよく飲むお茶なのじゃ」

「あまり流通がない草ですね……では私から」


 ザミールが名前は知っているけど流通はしていないと言いつつお茶を一口。続いて従者でもあるバーリオも、毒見役を兼ねてモルゲンロートより先にお茶に口をつけた。


「……!」

「……!?」

「お、どうした……!?」


 二人の眼がカッと見開いたのでモルゲンロートがびっくりして尋ねる。するとバーリオが小さく頷いてからお茶を勧めた。


「問題ない……いや、問題はあるのかもしれませんが……」

「ふむ? ……これは……! 美味い……!」

「うふふ、良かったです」

「うー♪」


 モルゲンロートもカッと目を見開いてお茶を飲む。その様子を見てトワイトと、ディランが抱っこしているリヒトが嬉しそうに笑った。


「しかし、本当に人間と変わらない生活をしているのだな」

「楽じゃからな。こうやって人間の子を拾って育てることもできるしのう」

「もう、後は余生を過ごすだけなのでゆっくり暮らせたらと思っています」


 モルゲンロートの質問にディランとトワイトが返す。そこで村人が疑問を投げかけた。


「そういえばドラゴンってどれくらい生きるんだ? ディランさん達が二千年生きているんだから実はドラゴンがいっぱいいるとか?」

「多分ワシは後二百年くらいで寿命が来るじゃろうなあ」

「私もそれくらいですね。個体差がありますから五百年くらいしか生きられないドラゴンも多いですよ。食生活とかでも変わりますし」

「世知辛いな……」


 三千年近く生きる個体と五百年くらいしか生きられない個体差を聞いて人間達は冷や汗をかいていた。特に口に指を当ててトワイトが言った食生活が刺さる。


「む……済まぬ、トイレはあるだろうか?」

「そこの廊下を右じゃ」

「助かる……!!」

「陛下!?」


 すると突然モルゲンロートが腹を抑えて立ち上がり、鎧を脱いでトイレへと駆けこんだ。慌てるバーリオだがお構いなしにモルゲンロートはトイレへ消えた。

 そして数分後に戻ってくると――


「ふう……」

「だ、大丈夫ですか陛下? あのお茶に変なものが入っていたということは……」

「む? いつものお茶じゃ」

「ええ」

「しかし……」


 バーリオが訝しんでいると、モルゲンロートが彼の肩に手を置いて笑う。


「大丈夫だ。実は便秘気味だったのだが、お茶を飲んで急に出るようになっただけだ」

「あら、それは良かったですね! 村の人達もそうでしたけど人間には薬みたいな効果があるのかもしれません」

「ああ、体がスッキリしたよ」

「このお茶……健康茶として売れば……」


 スッキリした顔でまた鎧を着こむモルゲンロート。そんな中、お茶をちびちび飲みながら商売のことを考えていた。


「これは人間に扱うのは難しいみたいだから売り物にはならないかもしれませんよザミールさん」

「そ、そうですか……」

「嬉竜草も珍しくはないが山の上の方に生えておることが多いし、採るのは難しいと思うぞ」


 ディランが追加で情報を与えると、ザミールは顎に手を当ててなにかを考えていた。

 

「まあ、この山は好きに使ってもらって構わない。魔物も多いが、お二人ならなんとかなるだろう。人間が迷い込んできて襲われていたら助けてくれるとありがたい」

「わかったわい。険しい場所じゃし、城というところに比べると狭いが遊びに来てくれても構わない」

「ははは、息抜きに来させてもらおうかな。この茶は美味い」

「その時はお供しますよ陛下」


 するとザミールが笑顔で言う。


「私は村で会えれば助かります!」

「むしろ村にはいつでも来てくれよ。ディランさんなら強いし、なにかあったら守ってくれそうだ」

「それは構わんが、そうそうなにか起こることもないじゃろ」

「村はここから見えますけどね」


 静かな場所なので避暑地のような感覚で使えるかもとモルゲンロートは考えており、村人は守り神という感覚で接していた。

 談笑していたところでバーリオが外に目を向けて口を開く。


「そういえば騎士達のことを忘れていた。入れ替わりましょう」

「そうだな」


 モルゲンロート達が腰を上げたところで、ディランが手を打って奥を親指で指す。


「そうじゃ、知り合ったのもなにかの縁。モルゲンロート殿、なにか土産を持っていってくれ」

「土産? いいのだろうか」

「ガラクタかもしれんが、なにか気に入ったものがあればというところじゃな」

「い、行きましょう陛下!」

「お、おう……」


 ディランの言葉に一番食いついたのはザミールだった。そこでペット達が玄関から家へ入って来た。


「こけっこ♪」

「「「ぴよー♪」」」

「ふう、陛下どうですか?」

「あら、お外に居たのね? すみません騎士さん達。相手をしてもらって」

「いえ、色々と衝撃で……」

「あーう♪」


 何故かご満悦のペット達が一列に並んで部屋に入り、リヒトを抱っこしているディランの足元に集まって来た。

 そこでトワイトにリヒトを渡し、ディランは立ち上がる。


「では騎士達も一緒に行くか。その間に婆さん、お茶を用意してやってくれ」

「はいはい。行ってらっしゃい♪」


 来客が楽しいのかトワイトは軽い足取りでキッチンへ行き、ペット達も着いて行った。


「ではこっちじゃ」

「承知した」

「い、いいのかな……?」


 村人たちは困惑していたが、とりあえず全員ということで裏の倉庫になっている洞穴へと向かった

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