第20話 竜、すれ違いそうになる

「すまない、村の人よ。彼等と話がしたいので、場を開けてくれないだろうか?」

「ああ、すみません騎士様。また彼等が面白いものを持ってきておりまして」

「……でかいトマトだ……!?」


 村人とザミール、そしてディラン達が会話をしているのを見ていた騎士は国王であるモルゲンロート達だった。

 しばらく様子見をしていたモルゲンロートだったが、そろそろいいかと村人たちへその場を離れるようにお願いをした。

 トマトにびっくりしていた指南役のバーリオを見て「俺達も驚きましたよ」と笑いながら村人たちはその場を離れて行った。


「色々と都合してもらったのう」

「リヒトのおべべが増えて助かったわ。ウチにあるのは私が編んだものしかありませんでしたから」


 ディラン達はその村人たちから野菜を雑貨、ミルクなどと交換してもらいホクホクしていた。思いのほか人気があったことも嬉しい要因だ。


「ぴ、ぴよ……」

「食べたかったのなら持って行くよう言わんかったらよかったのじゃが……」

「こけー」


 好物のトウモロコシが全部はけてしまい、ひよこ達は肩を落としていた。ジェニファーがそれを慰めていた。

 ディランは苦笑しながら帰ったら剥いてやると言い、元気を取り戻していた。


「あー♪」

「そろそろ帰るか。ミルクも貰ったし」

「そうですね」

「待ってくだされ!? お話を!?」

「あ、そうじゃった。すまぬ、歳を取るとたまに物忘れがあってのう」

「ぴよー?」


 籠を担ぎ、ペット達をカバンに入れて歩き出そうとしたところで、慌てたバーリオに止められた。

 一家は騎士達へ向き直ると、バーリオがサッと横へ一歩移動し、モルゲンロートが一歩前へ出てきて話しだす。 


「引き止めてすまなかった。私はこのクリニヒト王国の王、モルゲンロートと言う。ザミールの持って来た絨毯を買わせてもらった」

「まあ、国王様でしたか! ありがとうございます。私はトワイト、この子はリヒトと言います」

「ワシはディランという」

「あー」

「こけー」

「「「ぴよ」」」

「あ、これはどうも……」


 トワイトが絨毯の買取をしてくれたことに驚き、頭を下げる。ディランもそれに倣いリヒトも指を口に入れたまま真似をしていた。さらにそれを見たペット達も頭を下げていた。

 困惑する騎士達の中、ディランが話を続ける。


「いくらで買ったんじゃ? というかその物々しい恰好を見る限り、そんな話をしに来たわけではあるまい?」

「陛下の前だぞ、膝をつきなさい」

「よい。名乗りはしたが、今は一介の騎士だ。そうだな話を逸らして悪かった」

「後でお金を渡しますね。しかし、今は陛下の話を聞いてください」

「わかったわい」


 年配騎士の一人がやんわりと指摘をすると、モルゲンロートが手で制した。

 ザミールが絨毯の件は後でといい、モルゲンロートは話題が逸れてしまったことを謝罪しつつ、本題に入った。


「……君たちはあの山、キリマール山に住んでいると聞く。最近、ということだが変わったことは無いかな?」

「変わったこと? 私達はひと月ほど前にお引越しをしてきましたけど、この子を拾ったくらいですねえ」

「あー♪」

「拾った……?」


 トワイトが笑顔でリヒトの頬を撫でると嬉しそうに笑う。その言葉にバーリオが眉を顰めていた。


「うむ。山に捨てられておったのじゃ。手紙も残されておってな、可哀想なことをするものじゃ」

「なんと……あ、いや、それも変わったことだが、そうではない。ううむ……」


 腕組みをして首を振るディランに同調するモルゲンロートだが、また話が逸れてしまったと元に戻す。

 そしてあのドラゴンはもうどこかへ行ってしまったのだろうかと訝しむ。


「ふむ、では率直に聞くがあの山にドラゴンが降りたたなかっただろうか? ちょうど君たちが住み始めた時期に見かけたのだ」

「ドラゴンじゃと? 婆さんや、ワシら以外にドラゴンは見ておらんよな?」

「そうですねえ」

「ワシら……?」

「見ていないか。どこかへ行ってしまったのならそれでいいのだが……」


 なにか聞き間違えたかと首を傾げるバーリオと、少し安堵しているモルゲンロート。ディランとトワイトも考える。


「本当に知らないのか? 陛下がおっしゃるにはかなり大きな金色のドラゴンだったと聞いている」

「そうじゃのう。ワシら以外でドラゴンは見ておらんぞ」

「あなたは強そうだが、倒したというわけではないのか」

「見ておらんからのう」


 ディランは自分達がそうドラゴンであることを口にしているが、「住んでいるワシら以外、他の存在を見ていない」と、言い方を間違えていると考えているため、騎士達と話がかみ合わない。

 そこでトワイトが顎に指を手に当ててディランの顔を見る。



「金色の……? ああ!」

「どうしたのじゃ?」

「きっと私達のことですよ、あなた」

「ん?」

「ほら、この姿ですし、気づかないのだと思います」

「こけー」


 客観的に自分のことを話していないことに気づいたトワイトが小さく頷きながらドヤ顔で言う。

 そこでディランが気づき、手をポンと手を打ってモルゲンロートへ向き直る。


「そのドラゴンは多分ワシで間違いないわい」

「あんた、さっきからワシがって言っているけどどういうことだ? ドラゴンがあんただってことかい?」

「はは、まさか」


 年配騎士達が「それはないだろ」と笑う。するとディランが騎士達を手招きした後、歩き出す。


「すまんがちょっと村の外に来てもらえるじゃろうか?」

「ん? なにかな?」

「王様が見たドラゴンのことを思い出したんですよ」

「なんだと……!?」

「陛下、やはりドラゴンは居たのですね!」


 そこへ連れて行ってくれるのかと騎士達は装備を手にディランの後を追っていく。

 

「お、なんだ帰るのか?」

「いや、ちょっとやることができたわい。そういえばお主らも見ておらんかったな。隠すつもりもないのじゃが、驚くじゃろうと思ってのう」

「なんだよ?」


 門番にそういうとよく分からないと首を傾げていた。

 そのまま広いところに足を運んだ後、トワイトが立ち止まりモルゲンロート達をディランから少し離す。


「あなた、大丈夫ですよー」

「おう。久しぶりに変身するのう。……むん」

「「「あ……!?」」」


 ディランが魔力を開放した瞬間、その姿がどんどん大きくなり人の姿ではなくなっていく。

 モルゲンロートを含む騎士達はその光景に目を見開いて驚くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る