第19話 竜、村に馴染みだす
「こけー」
「「「ぴよ」」」
「無理しないでね」
「あーう」
一家は軽い足取りで下山をしていた。ジェニファーは戦闘に立ち、ひよこ達の先導をしている。
道はそれなりに険しいためニワトリとひよこにはまあまあ厳しい。それでもペット達はディラン達についていく。
リヒトは足元をちょこちょこ動く彼等に釘付けである。
「お、来た来た! おーい!」
「こんにちは」
「あー」
「すまんな、また来たわい」
三回目ともなると慣れたもので、ディラン達を視認した門番が手を振りながら声をかけてきた。
一家が挨拶をすると、笑顔で門を開けてくれる。
「ご近所さんだしな。この村に引っ越してきてもいいのに」
「夫は怖がりなんですよ。たまに会うくらいじゃないとダメなんです」
「あー」
「ええー……でかい身体をしているのに……」
「言うんじゃないトワイト!? ……む? ワシの木彫りを飾っておるのか」
門番の申し出を笑いながらトワイトが断っていた。その理由は本当だが、恥ずかしいと顔を真っ赤にして抗議の声を上げる。
そこで前回作った狼の木彫りが置かれているのが見えてディランが首を傾げていた。
「ああ。狼だったって話だったけどなんか愛嬌があるし、出来自体はいいしな。入口に置いていたら和むかと思ったのさ」
「いいですね! あなた、良かったわね」
「ふ、ふん。こやつらがいいならワシは構わん。もうやったものじゃからな」
「はは、ありがとよ」
「うむ。極凍のシルヴィアスも喜んでおるじゃろ」
「そうですね。お元気かしら?」
「誰だいそりゃ? こいつを置いてから魔物が村の近くに来なくなったんだよ。案外魔除けになってたりしてな。ま、いいや入ってくれ」
門番はディランの言葉の意味がわからず門番は頭を捻ったが、特に気にする必要もないかと一家を村の中へ案内した。
「あ、なんか商人さんと一緒に騎士が来ているぞ。なんかあったのかねえ」
「騎士? ああ、人間の戦士か」
「そうですね。冒険者さんなら魔物討伐ですけど、騎士さんはあまり会ったことありませんもの」
あまり気にした風もなくディラン達は歩いて行き、村の奥へと進んでいく。
「あ、いらっしゃい」
「こんにちはー」
「あーう」
「リヒト君もこんにちは」
「ザミールさんはいつもの広場だよ。なんか物々しいけど……」
見慣れた村人に挨拶をされ、女性がふにゃっとした顔でリヒトと握手をしていた。
近くで草むしりをしていたおじさんが不穏な空気だぞと汗を拭う。
「騎士じゃろ? まあ、ワシらには関係ないし、気にしなくていいわい」
「まあ、そりゃそうか。なんで来たかは言ってなかったし、ザミールさんの護衛かな?」
商人ならあり得るかとおじさんは納得していた。そのまま広場へと向かうと、ザミールの馬車が見えてきた。
「ミルクは後でいいかしら? 絨毯をもう一枚お譲りしたいわ」
「帰りでええじゃろ。野菜と交換してくれんかのう?」
「こけー」
「来ましたね! こんにちは!」
「来たぞい」
広場に到着するとザミールが声を高らかにディラン達を呼ぶ。近づいていくと、今日もいくつか売買をしているところだった。
「今日は絨毯のお代を持ってきました」
「あ、そうなんですね! 私も絨毯を一枚持ってきました。これも良かったら買ってもらえると助かります」
「少し小さめのものですね。もちろんです! ……と、それも一つの用事なのですが、もう一つありまして」
「ん?」
「あー?」
「ぴよー?」
そこでザミールは 二十名ほど集まっている騎士達へ目を向ける。ディランとトワイトもそちらへ視線を向けた。
「ほう、全員手練れじゃな」
「お年もそれなりにとっている感じがしますね。強そうですよ」
「そうじゃな。騎士が来ていることは知っていたが、ワシらに用事があったのかのう?」
「ええ。あなた達ご夫婦が住んでいる山について……おっと、皆さんが居る前ではちょっとできない話なので……」
「?」
ディランとトワイトは顔を見合わせて「なんだろう」と首を傾げていた。そのまま広場でペット達と遊んでいると、村人がディランに話しかけてくる。
「やあ、今日は大きな籠を持っているけどなにか持って来たのかい?」
「おお、そうじゃ。野菜ができたから分けようと思ってな。物々交換も考えておる」
「へえ、あんたが育てたのか。ウチは大根とかなんだけど、それ以外なら」
「大根はすりおろして食べるといいですよね」
ディランはほうほうと口にしながら背中の籠からトマトを取り出して見せる。
「このトマトなんかいい感じじゃろ」
「ふうん、赤くて美味そう……じゃなくてでかいよ!? その子の頭くらいあるじゃないか!? かぼちゃかよ!?」
「いい肥料があったからのう。トウモロコシなんかどうじゃ?」
「だからでかいって!?」
子供の腹回りくらいあるトウモロコシを見て村人が驚愕していた。その後も二の腕くらいのナスなどを取り出し度肝を抜いていた。
「なんだなんだ、またディランさんのところか?」
「うお、でかっ!?」
「欲しいのがあったら持って行ってええぞ。あ、交換で頼むわい」
「値段はつけた方がいいんじゃないか?」
「あまりそういうの詳しくないんですよ。ねー?」
「あーう」
そんなやり取りの中、村人が集まってきてワイワイと話が盛り上がってくる。
そこで少し遠くから騎士達が視線を向ける。
「あの夫婦がザミールの言っていた夫婦か?」
「そのようですね、陛下。……わかりますか? お前達も」
「……うむ……かなり絞っているから村人は分からんだろうが、魔力が強者のそれだ」
「もしかしてドラゴンを倒したとか?」
「わからん。とりあえず話を聞いてみよう」
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