第17話 竜、想像される
「……それで装備品を。騎士団を向けるというのは?」
「それでは相手に警戒心を抱かせてしまうかもしれん。ドラゴンはとても強いと聞く。まずは少数で様子を見るべきであろう」
装備はきちんとしていくが人数は数十人に留め、万が一のため見つからないよう斥候を連れて行く。もしモルゲンロートになにかあっても王都へ報せがいけるよう手配する予定となっていた。
深刻な事態にザミールは顎に手を当ててから少し考える。
「その山はどこですか?」
「キリマール山だ」
「なんと」
「?」
山の名前を聞いてザミールは面食らった。
それもそのはずで、ディラン達がよく立ち寄っているあの村の近くにあるのがキリマール山だからである。
「先日、絨毯を売ってもらった村が近くにあるのです」
「そうなのか……!? ドラゴンの話はしていなかったか?」
「ええ。あの時は平和なものでしたよ? ああ、そういえば絨毯を作った夫妻はキリマール山に住んでいると言っていました」
「なんだって!? ぶ、無事なのか?」
「特にドラゴンがどうとかは言っていませんでしたね」
ザミールが嘘を言っているという感じは微塵もない。モルゲンロートはその話を聞いて少し気が軽くなった。
「山で大人しくしてくれていると見て良さそうだな」
「そうですね。もしかしたらあの夫婦がなにか知っているかもしれません。今度聞いてみましょうか? ドラゴンの刺繡はもしかしたらそのドラゴンをモチーフにしたのかも。それと絨毯を二枚買い付けに行きたいと思っていまして」
「そうなのか? ……ふむ、それなら――」
モルゲンロートはザミールの話を聞いて思いついたことができた。小さく頷いた後、彼に提案を投げかけた。
「行く時は私達も着いて行こう。村の様子も見たいし、そのまま山へ向かってみたい」
「大人しくしているならそのままでもいいのでは?」
「一理ある。しかし、直にドラゴンと話してどういう経緯でこの国に来たか尋ねてみたい。……邪悪な存在であれば倒さねばならないだろう」
国の王とはそういうことだと神妙な顔でザミールへ告げる。
「白金貨の絨毯を買えるのも、美味い食事ができるのも民のおかげだ。危機があったら我等が真っ先にことに当たらねば嘘だろう」
「ご立派でございます」
「とはいえ、やっぱり怖いがな?」
ザミールが胸に手を当ててお辞儀をすると、モルゲンロートはくっくと笑いながら本当の心情を吐露していた。
「よし、では次に村へ行くのはいつだ?」
「三日後ですね。依頼のあった魔法効果のある武具についてはツテを辿って前日までにはご報告できるかと」
「うむ。頼むぞ」
その後、細かい日程調整を行いザミールは謁見の間を後にした。見送ったモルゲンロートは一人になると息を吐く。
「……ふう、いよいよか。バーリオに告げねばならんな。久しぶりの遠征はドラゴン相手でなくとも緊張するなあ」
普段は城で執務をすることが多い。
若いころは剣術も魔法もよく習っていたものだが、歳を取るとダメだなと一人苦笑する。
そこで謁見の間に人が入って来た。
「あなた、お話は終わりましたの?」
「む、ローザか。ああ、ザミールは帰った。次の謁見は二時間後だからしばらく空くな。絨毯はどうした?」
「ヴァールに見せたら大変喜んでいましたよ。部屋に欲しいと」
「そうか。ならあいつにプレゼントしてやるかな」
ローザの言葉にあいつも男かと頼もしく思うモルゲンロート。そのままローザへ先ほど決まったことを話すことにした。
「そうだ。ローザよ、三日後に私はバーリオ達とキリマール山へ狩りへ行こうと思う。留守は任せた」
「あら、久しぶりですわね? 身体を動かしたくなったのですか」
「そんなところだ。美味い山鳥が獲れるといいな」
「果物などあれば欲しいかもしれませんわ」
張り切っていると思ったローザが笑いながら果物を所望していた。若いころは彼女の好きな野イチゴを持って帰っていたからである。
「ヴァールにも伝えておくか。絨毯の話も聞いてみたい」
「行きましょうか」
国王夫妻はそんな話をしながら一度、謁見の間を後にする。
息子のヴァールに狩りの話をすると自分も行きたいと懇願してきた。それを『また今度な』とモルゲンロートはやんわり断っていた。
◆ ◇ ◆
「ふぇっくしょい!」
「あら、くしゃみですか?」
「鼻がムズムズしよる。あ、こりゃ、リヒトはまだ食べてはいかん」
「あー」
自分達が脅威になっていることなどつゆ知らず、ディラン達は森へ採集に出かけていた。
キノコ類に野草、野イチゴといった今晩の食事である。その野イチゴをリヒトが手に取ろうとしていたのでディランが窘めていた。
ちなみに肉は先ほどタスクボアという牙の鋭いイノシシタイプの魔物を倒したのでメインディッシュは決まっている。
「リヒトにはこれじゃ」
「だー♪」
「ぴよー」
野イチゴの代わりにトコトを握らせた。
いつも寝たまま遊んでいて、力加減がもう分かっているのでぎゅっと握らないように両手で包むように持っていた。
「いいわねリヒト」
「あうー♪」
「ぴよー♪」
ふわふわの毛は手触りが良いのでリヒトは嬉しそうに掴んでいた。トコトも特に嫌がることなく呑気に鳴く。
「こけー」
「「ぴよー」」
そこで残されたペット達が抗議の声を上げていた。仕方ないとディランはトワイトの肩にひよこ達を乗せ、ジェニファーを自分で抱えるのだった。
「そろそろ帰るか」
「そうですね! おむつを替える時間になるし。タスクボアは任せてもいいかしら?」
「無論じゃ。帰ってからワシが捌くからリヒトを頼むわい」
そう言って森を後にする一家であった。
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