第30話 竜、さっそく仕事をする
「よし、完成じゃ!」
「やりましたね、あなた」
「あーう!」
『山の管理者証 ディラン・トワイト・リヒトの三名は、クリニヒト王家が管理者として認める』
ディランがマイティオークの木材を加工し、そう書かれた看板を家の前に建てた。
看板の装飾は、金色に光るディランの鱗を使った縁に、ミスリールの金属板に文字を書いてクリスタル加工した板がはめられているというものだった。
それを大人の目線でわかる高さに足をつけ、地面に埋めて固定した。
陽光でキラキラと輝き、装飾品としても一級品と言える品である。
「良いものをもらったのう。リヒトの名前もちゃんとあるわい」
「私が書いてと頼みましたからね!」
「あー♪」
モルゲンロートの帰り際にトワイトが頼んでリヒトの名前も書いてもらった。
大きくなれば山を出ていくかもしれないが、息子として育てているので家族なのだからと承諾させていた。
「今度は山をぐるりと一周するのもいいかもしれませんね」
「うむ。魔物の種類を把握しておくのもいいじゃろう。冒険者が尋ねてきた時に生息しているか聞いてもらえれば無駄足を踏むこともあるまい」
「ええ。ここまでの道ももう少し舗装しておけば自然とここに足を運ぶかもしれないわ」
「おお、いい案じゃ」
「こけー!」
ひとまずリビングへと戻り、今後なにをするか話し合う二人。やることが出来たので色々と考えるのが楽しいようである。
「まずは整備から行くか」
「近くにはいつも行く村しかありませんし、そっちを歩きやすきしましょう」
「ワシがやるからお前はリヒトと遊んでいてくれ」
「ええ、やりますよ? 交代ならいいじゃありませんか」
「むう」
妻にやらせるのは忍びないと思って言ったが、トワイトは自分のやりたい性格なのでリヒトを餌にしても釣られなかった。
二人で交代しながら下山しつつ道を整備していく。里を作った時のノウハウがあるため、実はそれほど苦労しなかったりする。
「こけこけ」
「小石を拾ってくれておるのか、助かるわいジェニファー」
「こけー♪」
昼をお弁当で済ませてそろそろ陽が傾き始める時間になってきた。もうすぐ地上になるくらい進めていた。ジェニファーは元気に歩き回り、虫を食べたり小石を脇にどけたりして手伝っていた。
「すぴー……」
「「「ぴよー……」」」
「困ったわ。交代しようと思ったんですけど、リヒトがお昼寝しちゃいました……」
「寝かせておいたらええ。後はワシがやるからのう」
「ごめんなさい」
トワイトが謝るが、ディランは妻とリヒトの頭を撫でてからにっこりと微笑んで作業に戻った。
胸中ではトワイトが作業ができなくなったのでリヒトを『よくやった』と褒めていた。
「がんばってー」
「おうさ」
そしてさらに数時間ほど続けて見事、歩きやすい山道が完成した。少しずつ蛇行するような形にしているので急な坂にならず、ゆったりと歩くことができる。
「ふむ、悪くない。これなら人間も体力を残して登れるじゃろうて」
「こけっこ」
ディランが腕組みをして満足気に頷くと、ジェニファーがトタトタと坂を上っていった。
そして少し高いところから飛び降りて、バサバサと羽を広げながらゆっくり着地する。
「ふふ、上手に飛べたわねえ」
「こけ!」
ひよこ達が寝ているため、いつもの面倒見が良いお母さん役はなりを潜めてジェニファーは遊んでいた。
そこでディランがジェニファーを抱えてから草原が広がる場所を見る。
視線の先には村の外壁が小さく見えていた。
「ふむ、村に伝えてもいいのじゃが迂闊に足を踏み入れると魔物に出くわすかのう」
「そうですねえ……でも折角ここまで来ましたし村へ行きましょうよ。お伝えする時にそう言えばいいですもの」
「そうするか。村に宿と食堂があったようじゃし、晩飯はそこで食おう」
「いいんですか?」
「婆さんの飯が一番美味いが、今日は疲れたじゃろ。たまには作らんで楽をしよう。金はあるしの」
さらりとのろけを入れつつ、トワイトに並んで歩き出す。すっかり陽も暮れて、狼の遠吠えが聞こえてきた。
「こけー」
「ワシらがいるから大丈夫じゃ。この前のアッシュウルフかのう」
「毛皮にされずにすんだ子達ですね♪」
「あー……」
「はいはい、ちゃんといますよリヒト」
トワイトが山の方へ首だけ向けてそういうと、リヒトが寝ぼけながら彼女の頬に手で触れていた。しばらくして村へ到着すると、いつもとは違う門番が居た。
昼間と違って門は閉じられており、鉄柵が下げられ、その向こうにある詰め所のようなところから顔を出して尋ねてきた。
「ありゃ、こんな時間に珍しいね」
「おお、時間が違うと様相と人間が違うのだな」
「そりゃあ夜になれば魔物も活発になるし、盗賊みたいなのも居るからな。ま、そこの狼さんの木彫りが置かれてから魔物は減ったよ」
「それはなによりですね」
トワイトが微笑むと、門番は鉄柵を開けて招き入れてくれた。そのまま話を続ける。
「でも最近、面白いことがあってさ」
「面白いこと?」
「ああ。夜、寝静まったくらいにアッシュウルフが村に来るんだ。別になにをするわけでもなく、木彫りの前に座ったり寝そべったりしていてな」
月が出ている間は離れないのだと門番が言う。寝静まっているので村に被害がでることはないから放置しているけどと笑う。
「あいつらかのう」
「そうかもしれませんね。次、見つけても襲ってこなかったらそっとしておきましょうか」
「まあ、毛皮以外あまり使い道がないから襲われでもしないかぎり放置だよなあ。で、なにしに来たんだい?」
「飯を食いにじゃ。旅人に食べさせるための食堂があったじゃろ」
それを聞いた門番は目を大きく開けた後、笑いながら食堂の場所を教えてくれた。
ディラン達は食堂に居た村人に家までの道が歩きやすくなったと話し、ザミールに伝えておくよと返されていた。
「お、遠吠えだ。またあいつらかな。ご夫婦は大丈夫だと思うけど、アッシュウルフに気を付けてな」
「うむ、ありがとう」
もうすっかり村人たちに受け入れてもらえているため、気遣ってくれていた。
「あー……」
「ふふ、可愛いわねえリヒト君。ひよこ達も」
「……というかひよこ達、まだこの姿なのか? そろそろ大きくなってもおかしくないけど……」
そんな話をしながら夜が更けていく――
◆ ◇ ◆
「……ドラゴンだと?」
「ああ、俺は見たんだ。ひと月くらい前のキリマール山にでかいドラゴンが二頭、降り立つのが」
王都の冒険者ギルド。
その端で冒険者が二人、声を潜めて話をしていた。一人の男はドラゴンを見たと口にする。
「でも、そんな話は他の奴等から聞いたことがないぜ? というかあそこって最近、国から管理者が選定されたんだ。ドラゴンなんているわけねえ」
「わからんぜ? ドラゴンを隠したくてそう言っているだけかもしれない。……行ってみないか?」
聞き役の男は腕組みをして噂すら聞いたことがなく、むしろ山に管理する者が増えたと口にした。ドラゴンが居る山に派遣はしないだろうと返す。
だが、国がなにかを隠しているからという可能性を示唆した。
「ふむ」
「な?」
そして――
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