第29話 竜、山を散策する
「では今日は散歩がて山を歩くとしようかのう」
「お弁当を作りましたよー」
「早い。流石は婆さんじゃ」
「こけー?」
「あなたたちのもありますよ♪」
「ぴよー♪」
ザミールとバーリオが下山した後、一家は看板を建てるための材料を採りに山登りをすることにした。
ちなみに二人はお茶を飲んで体が温まったと喜んで帰っていった。お土産はやんわりとお断りされていた。
「この山、好きにしていいと言っていましたけどあの一角があれば生活できますよね」
「そうじゃな。しかし、土砂崩れ対策や川を別の場所に引いたりもできるから、やりたいことが出来た際に融通が利くぞい」
「あ、確かにそうですね。雨が降った時にお洗濯物を干せるように雲の上にある頂上付近に干場を作ってもいいかしら?」
「ええと思う」
「やった♪」
「あー♪」
トワイト提案にディランが『そういうのじゃ』と返すと、彼女は微笑みながらリヒトに頬ずりをしていた。リヒトもトワイトの頬に手をおいて笑顔を見せる。
「わふ?」
「お、アッシュウルフじゃ」
「居たんですねえ」
しばらく登っていると、三頭の狼が日光浴をいているところに遭遇した。標高がそれなりにあるところで群れを作っていて足腰が強い。
獲物を囲んで一斉に襲うというシンプルな灰色狼だ。
「ぐるう……」
「「「ぴよ!?」」」
その中の一頭が頭を上げて、リヒトの胸ポケットから顔を出しているひよこ達を見て涎を垂らす。
ちなみにリヒトの服はあの大泣きした日にトワイトが新しく縫い、ひよこ達が入れる胸ポケット付きのものを作った。寒くなると羊毛を使ったもこもこの帽子もつけられる優れものだ。
「こけー!」
「あーう!」
「おお、怒っておる。わかるんじゃのう」
そしてひよこ達が狙われていると感じたリヒトと、ディランの持つカバンに入っているジェニファーがアッシュウルフに威嚇をした。
「ふふ、大事な家族ですからね。もし襲ってきたら毛皮にするから大丈夫よ」
「肉はあまり美味しくないからのう」
「「「!? ……ひゅーん、ひゅーん……」」」
もちろん、夫婦からすると捕食者側なのはこちらなので、アッシュウルフを見てそんな感想を呟いていた。
意味が通じたのか、三頭は怯えながらその場を立ち去って行った。
「あー♪」
「ぴよー♪」
「ぴよぴー!」
自分が追い払ったと手を振ってリヒトがアピールし、ひよこ達が賞賛していた。
「どうしても素材が欲しければ狩りはするが、そうでなければ山に住人じゃ」
「ええ。あまり上の方に人間はいかないみたいですし、どんな魔物や草があるかチェックして教えてあげましょうか」
「お、それはいいな。管理者と言われたからにはなにか仕事をしておくか。いい散歩にもなる」
「あーう」
そんな話をしながら、ディランはキノコや山菜といった食事に使う採集をしながら進んでいく。
「む、肉はまだあったかのう」
「ええ、大丈夫ですよ」
「なら、今日はいいか」
ディランの視線の先にはレッドディアという背中だけ赤茶けた毛を持つ、鹿に似た魔物が居た。肉が余っていないなら狩る予定だったが、家にまだあるなら必要ないと気配を戻す。
「……!」
その瞬間、レッドディアはディラン達に気付き、一目散にその場を去っていった。
「食べる分だけあればええからのう。ワシらはお前達のような生き物を食べねば生きていけん。しかし、こうやって一緒に居ることもできる。不思議なものじゃ」
「こけー」
「ぴよー……」
「あうー」
「ふふ、あなた達は食べたりしませんよ。食べるものが無くなったとしてもね。家族ですもの」
「ぴよ!」
不安がっていたトコトをポケットから取り出してトワイトが優しく撫でる。そこでディランもカバンに入っているジェニファーの背中を撫でてから言う。
「こけ」
「婆さんの言う通りじゃ。リヒトが大きくなってひもじい思いをても、食わせるために暖炉に飛び込んで焼き鳥なったりするんじゃないぞ?」
「こけ……」
ジェニファーはディランから目線を逸らした。彼女はそのつもりがあったのかもしれない。
「いい? 家族が居なくなっちゃうのが一番悲しいの。生きていて旅立ったならいいけど、死んだらもう会えくなっちゃうからねえ」
「あーう? きゃっきゃ♪」
「ぴよー♪」
まだわからないと思うけどと、トワイトはトコトをリヒトの手にそっと乗せ、リヒトは撫でた後ポケットへ入れた。
「……長く生きておると、別れが多いからのう」
「本当に」
ディランとトワイトは穏やかな顔で再び山を移動していく。何頭ものドラゴンや種族、人間と出会い別れを繰り返してきた二人は静かに、ここで最期を迎えるのもいいのかもしれないと考えていた。
きっとリヒトも先日会った人間達も、国王も自分達より先に老いて死んでしまう。だからこそ、今を大事にしているのだ。
「おー! やはりここにもあったぞマイティオーク」
「まあ、立派な木! これなら雨風にも強い看板を建てられますね」
やがて目的の樹木、マイティオークを発見し声を上げた。この木はとても硬く、耐水性が高いため家の材料として最適なのだ。
自宅を作った時は建て直せばいいと考えていたが、友好の証でもある看板は立派なものにしようと足を運んできたのだ。
そして礼をしたあと、樹齢の高そうなマイティオークを木材に変えていく。
「これくらいでいいかの?」
「あ、物干し竿と土台も欲しいわ、あなた」
「わかった」
妻の要望に応えるべくもう少しだけと木材に加工していく。太い枝が無くなり、少し外見が寂しくなった。
「また生えてくるじゃろ。助かったよ」
ディランがマイティオークを軽くポンポンと叩くと、風で葉が揺れた。適当なツタで木材を結ぶとトワイトが空を見上げて口を開く。
「それじゃあ山頂でお弁当にしましょうか♪ もう少しみたいだし」
「こけー♪」
「あー♪」
そうして一家は山頂を目指していき、数分したところで到着した。
「おお、いい眺めじゃのう」
「はい、お茶とおにぎりですよ」
「おお、すまんな。お前達にはこれじゃ」
ディランがお茶とおにぎり、それと卵焼きを広げる。そして彼はゆでたトウモロコシを取り出した。
「こけー♪」
「「「ぴよー♪」」」
「あー」
大興奮のペット達がトウモロコシへと群がっていく。ポケットから次々と出ていき、リヒトが手を伸ばす。
「ふふ、みんなご飯だからね。リヒトもミルクを飲みましょう」
「あー♪」
「ずず……。いい眺めじゃ。飛んでいる時とはまた違って見えるわい」
お茶を飲みながらディランがそう言う。
ゆっくりとした食事の後、物干し竿を組み立ててから一家は自宅へと帰るのだった。
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