第31話 竜、狙われる
「キリマール山へ行く?」
「ああ! ドラゴンが居るんだ、行ってみようぜ」
「ガルフがまたアホなことを言いだした」
「いつものことじゃない」
「私はすでにそう言いました」
「流石はヒューシ」
「そうだな! って、酷いね君たち!?」
冒険者ギルドでドラゴンを見たと言っていた冒険者の男二人が、翌日、宿の一室でパーティメンバーの女の子二人に同じ話をしていた。
ドラゴンを見た男はガルフ、その話を持ち掛けられた眼鏡の男はヒューシと言われていた。
女の子二人の反応は冷たく、辛辣に返されたガルフは目を見開いて驚いていた。
そんな彼にロッドを手にした女の子が言う。
「だいたい、ドラゴンに会ってどうするのさ? あたし達で勝てる相手じゃないよ?」
「まあ、聞いてくれレイカ。ドラゴンはカッコイイ、そうだろ?」
「ヒューシ、ユリ。今日は三人で行ける依頼を探そう」
「賛成」
「まだ話は終わってないんだけど!?」
ロッド肩に担いで大きくため息を吐いたレイカと呼ばれた女の子は、ガルフ以外の残り二人へ視線を向けて三人で依頼をすると言う。
ユリという軽装備の女の子と魔法使いらしいローブを羽織ったヒューシは同時に頷く。
「待てって! そりゃちょっとは怖いが、まずドラゴンなんてお目にかかれねえ。それを見るってのは誰かに自慢できる」
「あほくさ」
「悪いけど一人で死んで?」
「と、言うだろうなと思っていたさ。だけど、聞け。ドラゴンの素材は一つで白金貨数十枚になるという話を」
「「詳しく」」
「あなた達……」
金の話になった瞬間、レイカとユリが食い気味にガルフへ詰め寄った。その目は輝いていた。ヒューシが呆れて眉間を摘まんでため息を吐くが、ガルフはお構いなしに口を開く。
「戦う必要はねえ。どっかに鱗の一枚でも拾ってくればしばらく遊んで暮らせるんだ。どうだ?」
「本音は」
「間近でドラゴンを見たい……!」
「まあ、いいけど。なんかあったらあんたを囮にして逃げればいい」
「うん」
こちらも目を輝かせているガルフに、ユリが提案を出し、レイカが同意した。
「うん、じゃねえよレイカ!? 彼氏を囮にするなよ!?」
「はいはい、ごめんごめん」
「軽いよ……ま、まあ、行くってことでいいな」
「まあ、ドラゴンの種類にもよりますけど、学術的価値が高そうですしお金になりそうならいいでしょう」
「おう! それじゃ早速出発だ!」
ガルフが拳を付き上げて言うと、三人も渋々拳を上げて予定が決まった。
その足で自分達の馬車へ向かうと装備と食料を確認して出発する。
町を出る時、同じく町を出る馬車と一緒になった。
「あれ? ザミールさんじゃん」
「おや、ガルフ君達。おはようございます。今から依頼ですか?」
「いや、俺達はドラ……ごふぁ!?」
「あはは、ちょっとキリマール山まで採集に……」
「……そうなんですね。私も近くの村まで行くので、途中までご一緒しませんか?」
キリマール山と聞いてザミールが耳をピクリと動かした。するとそこでザミールが一緒に行かないかと提案する。
「いいけど、村に行くんだ?」
「よく物資を売買しに行くんですよ。護衛費は払いますから」
「ラッキー♪ そういうことなら是非ぜひ!」
ユリが屋根のない荷台から両手を合わせて喜んでいた。
特に困ることも無いため、ガルフ一行は一緒に行くことにした。
◆ ◇ ◆
「今日はなにをするかのう」
「あーう?」
「山の散歩でいいか?」
「う!」
トワイトが食事を用意している間、ディランはリヒトを連れて小屋へ向かう。今日も卵を貰いに行くためだ。
朝が早いためペット達もまだ出てきておらず、リヒトが探していたので連れてきた。
「よいしょっと……まだ寝ておるな」
「あーう?」
巣にジェニファーが座っており、目を瞑って首が揺れていた。それはいつも通りだが、リヒトは指をくわえてきょろきょろと周囲を見渡す。
理由はひよこ達が見当たらないからである。
「ひよこ達がおらんな?」
「うー?」
ディランがそれに気づき、リヒトが訝し気な声を上げていた。
だが、その瞬間――
「ぴよ……?」
「ぴー?」
「ぴよー」
「あー♪」
――ジェニファーのお腹の下からポンポンポンとひよこ達が顔を出してきた。どうやら寒くて潜り込んでいたらしい。
姿を確認したリヒトは両手を上げて喜び、ひよこ達もリヒトを見つけて飛び出した。
「よっと……」
「あーう♪」
「「「ぴよー♪」」」
卵を採るため腰を下ろしたディランの足を登ってリヒトのポケットに仲良く収まった。
「こけ!?」
「お、すまん起こしてしまったか」
「こけっこー!」
ディランが左手でジェニファーを持ち上げて卵を採ろうとした際、ハッと目を開けて一声鳴いた。
「では今日ももらうぞい」
「こけ」
ジェニファーはディランの腕に乗って頷いた。そのまま今日も三個の卵をもらっていく。そのままジェニファーを腕に乗せたまま立ち上がり、リビングへと戻った。
「婆さん、卵じゃ」
「あーい♪」
「はいはい、ありがとうございます。あら、いいわねリヒト」
お母さんにひよこ達を見せるようにポケットをポンポンと叩くリヒトに、トワイトは頭を撫でながら微笑みかけていた。
すでに暖炉は火がついているのでジェニファーは暖炉の前を陣取った。
「ミルク、温めておきましたよ」
「では先にリヒトにミルクをやろうかのう」
「あー」
そんないつもの朝。
朝食を摂って、畑を手入れし、洗濯をしたり薪を拾ったり……さらに最近では山の管理者としての仕事も自主的にする。
「仕事があっても時間はいくらでもあるからあんまり変わらんのう。おかわり」
「そうですねえ。洗濯物を干したらいつもとは違う方角に下山しますか? はい、どうぞ」
「うー?」
「あ、ダメよリヒト。まだ食べられないわ。あ、そうだちょっと考えていることがあるんですけど、それを作ってもらえませんか?」
「いいぞ」
まだ内容も聞いていないのに即答するディランに苦笑する。
そしてトワイトの提案とは、リヒトを膝の上に乗せて食事をすると転がってしまうかもしれないので、専用の椅子を
「首がすわるのはもう少しかかると思いますし、どうかしら?」
「ほうほう」
ベッドだと寝転がって上しか見えないので、少し傾いたベッドのような椅子はどうかと言う。
ディランは相槌を打ちながら食事を口に入れていく。その間に『どういうのがいいか』と頭に描いていた。
彫り物は上手くないが、家や家具といった無機物は得意なのである。
「マイティオークよりも柔らかい木がいいかのう」
「あなたがいいと思うので……あら、お客さん?」
「あーう?」
「こけー?」
そこで来客を告げる鐘が聞こえてきた。
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