第35話 竜、料理を振舞う

「そういえば今日はモルゲンロート殿が来るらしいのう」

「ええ、レイカちゃんが言っていましたね。お米と食べたいとか」


 数週間で育ち、あっという間に収穫が出来た。

 その際はガルフ達も手伝ってくれ『村を思い出すな!』などと言いながら喜んで最後まで付き合ってくれた。


「あの時、出来た米を食べれば良かったのにのう。まあ、今日は一緒に来るらしいが」

「たくさん出来たからいっぱい来ても大丈夫ですね」

「あーう?」

「今日はお客様がたくさん来るわよリヒト♪」

「あー♪」


 賑やかになると聞くと、よく分かっていないがリヒトはトワイトが嬉しそうなので喜んでいた。


「こけ?」

「ぴよ?」

「ぴよー」

「ぴよっ」


 そこで来客を告げる鐘が鳴り、ペット達が玄関へ走って行く。ディランが追っていき、玄関を開けるとそこにはガルフ達が立っていた。


「来たぜ! 今日はよろしく頼むよ! 痛っ!?」

「お願いします、でしょ!」

「はっはっは、お主達は収穫を手伝ってくれたから構わんぞい」


 いつもの態度にレイカが尻を引っぱたく。

 それを見ていたディランが笑いながら構わんと二人の頭に手を乗せていた。


「こけー!」

「「「ぴよー!!」」」

「あはは、みんなこんにちはー」

「相変わらず揃ってるな……」


 ユリはしゃがんで歓迎して来たペット達を見て頬が緩む。ヒューシは眼鏡を上げながら『訓練でもこうはいかない』と首を傾げていた。


「お、ちょうど一緒になったかな?」

「え? あ、陛下……! ご、ごきげんんるわしく……!」

「陛下、お久しぶりです」


 玄関で色々と話していると、背後から声がかかる。それは国王モルゲンロートだった。ガルフが振り返って膝をつき、レイカ達も倣う。焦ったガルフはちょっと怪しいが、ヒューシがフォローした。

 

「良い、ここでは一人の騎士として扱ってくれ。肩が凝ってしまう」

「いえ、騎士でも十分お……私達には位が高いんですが……」

「はは、確かにそうだな。まあ、お前達の態度は割としっかりしていると思うよ」


 後についていたバーリオがガルフを見てそう言う。貴族など横柄な者も多いからだと続けた。


「いや、俺達は知っているからだと思うよバーリオ様。陛下が山ん中に居るとか知らなかったらもうちょい態度変わるぜ」

「あんたは特にね」

「うるせー」

「立ち話もなんじゃし、中へ入ってくれ」

「お邪魔しますー!」

「こけー!」


 ディランが中へ誘うと、ジェニファーが『いらっしゃいませ』と言わんばかりにひよこ達を道を開けて羽を広げた。

 ガルフ達にモルゲンロート、バーリオと騎士が四人。そしてザミールがリビングへ集まった。


「いやあ、話には聞いたことがあったんですがまさかコメを食べられるとは!」

「ふふ、商人さんでもそういうことがあるんですねえ」

「あいー」

「あまり遠出が出来ないもので、お恥ずかしながら知らないことの方が多いですよ」


 トワイトが尋ねると、ザミールは頭を掻きながら愛想笑いを浮かべていた。

 王都周辺や近隣の町や村ばかりなので、異国の商材などは中々扱うことができないのだと言う。

 それでも仲間からたまに話を聞いたり、見せてもらっているので目利きはできると語った。


「それにしても米を食べたいと言うとは思わなかったわい」

「こっちには無い食物だからな。興味がある」

「陛下は彼等から話を聞いてずっとそわそわしていたのですよディランさん」

「ワシらが育てたので口に合えばいいがのう」

「あ、なんだかいい香りがしてきた」


 ひよこを手に乗せて可愛がっていたユリがキッチンから漂ってくる匂いに気づき、目を閉じて笑みを浮かべる。

 程なくしてトワイトが人数分のご飯とスープ、それとちょっとした肉に、焼き魚や小皿を持って来た。


「わあ……! 白くて艶々だわ!」

「おお、美味そう!!」

「ほう、これは美しいな……!」

「これがパンの代わり、と。香りが素晴らしい」


 レイカ、ガルフ、ヒューシ、モルゲンロートがそれぞれ感想を口にし、バーリオや騎士達も見たことがないと話し合っていた。


「この野菜の切れ端のようなものは?」

「それはお漬物です。ご飯と一緒に食べてみてください。あ、お箸はこうやって使ってください」

「ほう、これは東の国の。もしかして二人はそこから……?」

「まあ、近いところではあるのう」


 モルゲンロートが二人の居た竜の里の場所を推測していた。だいたい合っているとディランが返す。


「ではひとまずこれで召し上がってください」

「彼等に悪意はないと思いますが、私が毒見をします。いただきましょう」

「「「いっただきまーす!」」」


 トワイトの言葉に全員が一斉に二本の棒、箸を掴んで一斉に食事を始めた。

 まずは全員が気になる白米から口にする。


「……!」

「これは……!」

「粘り気は少しあるのに、あっさりとした上品な口当たり……!」

「噛めばほのかな甘みが広がる!?」

「美味しい……!」


 炊き立てご飯を口に含んだ各々は目を輝かせて米の感想を言い合っていた。そこでガルフが声を上げた。


「なんだよこのツケモノってやつ!? コメと一緒に食ったらさらに美味くなったぞ!?」

「塩気が合うのじゃ。この焼き魚とも相性が良い。肉のソースを少しつけて食べるとまた違った味になる」

「私、魚が好きかも……!」

「僕は断然このガーリックソースの肉をお供にするね! ああ、これは色々おかずを試したい!」


 おかずも好評で普段冷静な顔をしているヒューシが満面の笑みを浮かべていた。

 そこへさらにトワイトが皿を追加する。


「これもどうぞ。今日採れたジェニファーの卵で作った卵焼きですよ♪」

「こけー♪」

「むう……卵焼き……平民の料理と聞くが」

「陛下、毒見をします」


 その瞬間、バーリオの眼が光りスッと皿をモルゲンロートの前から攫う。


「あ、バーリオ!? そんなに持っていくな!」

「……! なんと、ふんわりした卵焼きだ……!」

「お前!?」

「モルゲンロートさん、まだ焼いてますから大丈夫ですよ」

「おお……!」


 色々なおかずを食べ比べ、あれこれ自分の好みを口にする。ポークスープを口にしたところでディランが言う。


「みそ汁も欲しいところじゃが、具が無いからのう」

「そうですねお豆腐もワカメもありませんし。味噌はあるんですけど」

「また知らないものが……トーフとはなんです?」


 騎士の一人が苦笑しながら尋ねると、口に米を頬張っているザミールが茶碗を掲げて叫ぶ。


「私、食材の名前がわかれば買ってきますよ……! いやあ、卵焼きが美味い!」

「こけー♪」

「照れるなってジェニファー! コメ、まだあるかな、おかわりが欲しい!」


 ガルフがジェニファーに笑いかけながらおかわりを要求する。トワイトはそれを受け取ってからキッチンへ向かう。


「はいはい、ちょっと待っていてね」

「即興で作った茶碗と箸じゃったが悪くないのう」

「木彫りじゃなければ上手いんだなあ……」


 ディランがこの日の為に作った茶碗と箸を掲げて不敵に笑う。それをザミールが苦笑していた。

 そんな調子で食事は終わり、帰る時間となった。


「いやあ、凄かったな。また遊びに来るよ」

「国王があまりで歩いてはいかんのじゃないか?」

「ははは、手厳しいな! まあ、ほどほどにな。お主達はどうするのだ?」

「我々は村で一泊してから帰ろうと思います」

「では途中まで一緒か。またなディランどの!」

「リヒト君またね!」

「あーい♪」

「「「ぴよー!」」」


 そのまま下山をし、途中の村からモルゲンロートはガルフ達と別れた。ゆっくりと帰っている途中、荷台からモルゲンロートがザミールへ言う。


「ディラン殿はあの米を売る気はないだろうか。今度聞いてみてくれないか?」

「え!? あ、まあ確かにあれは商材として優秀……しかし、作り方を聞かないとあれは出来ない気がします」

「ふむ。コックに作らせようと思ったが難しいかな? 今度、交渉してみるか。トワイト殿にコックを派遣するとか」

「ローザ様に食べさせたいのですかな」


 スラスラと提案を口にしているとバーリオが小さく頷きながら結果を言う。


「バレたか。うむ、あれだけの品、私だけ食べるのは申し訳ないなと思ってな。米は……取引したらいくらくらいになるだろうか」

「生産者がディラン殿のみなので、かなり価値が――」


 ザミールとそんな話をしながらモルゲンロートは満足した顔で王都へと帰還するのだった。

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