第27話 竜、油断をする

 モルゲンロート達が尋ねてきて一か月ほどが経過した。

 ミルクを買いに行き、野菜を売ったりするため村に行くことが増えたが、特に恐れられることもなく交流ができていた。

 訪問者もおらず、毎日が穏やかに過ぎていく。


「すぴー……」

「よく寝ておるな。起こすのは可哀想じゃ」

「そうですね。先に食事の準備をしてきましょうか」

「頼むわい。ワシは畑から野菜を採ってくる」


 ディランとトワイトはリヒトのベッドを覗き込み小声でそんな話をする。

 いつもはどちらかが起きた時点でバッチリ目を覚ましているのだが、昨日は遅くまで遊んでいたので起きれなかったようだ。

 起きていたらディランが抱っこして畑を連れて行き、その間にトワイトが朝食の準備という流れになるが、今日はベッドに寝かせたまま部屋を出て行った。


「こけー!」

「ぴよっ!」

「ぴよぴよ」

「ぴよー」


 リビングへ行くとペット達が暖炉の前に並んで座っていた。ディランに気が付くと火をつけて欲しいと言わんばかりに一斉に鳴いた。


「これ、リヒトはまだ寝ているから、ぴよぴよしてはいかん」

「ぴよー……」

「こけ」

「私はキッチンにいるからなにかあったら声をかけてね」


 ディランに静かにするようにペット達へ言うと、ひよこ達は声を抑えていた。

 トワイトがそのままキッチンへ向かうのを見届けてからディランは暖炉に火をつけた。


「しばらくすれば暖かくなるじゃろ。さて、畑へ行くとするか」

「こけっこ」

「ぴよー」

「ん? なんじゃ、ついてくるのか?」

「ぴ!」


 リヒトに構えないならとペット達は畑へ行くことに決めた。もちろん、お目当てはトウモロコシである。

 ディランに頼めば朝ごはんがトウモロコシになることを学習していたのだ。


「お主らよく食うから巨大トウモロコシも本望じゃろうのう」

「ぴよっぴー♪」


 玄関を開けてディランが外へ出ると、一列に並んでジェニファー達がついてくる。そのまま真っすぐに川の傍にある畑へ向かった。

 ディラン達が出て行ったことに気付いたトワイトがレタスを千切りながら微笑む。


「お野菜がすぐ手に入るのは助かるわねえ。ここは土地も大きいし、リーフドラゴンのフラウさんのおかげで大きい野菜が採れるし。竜の里だと手狭で畑が小さかったもの」


 里を追放されて友人は居なくなってしまったが、生活水準はあがったかもとトワイトは鼻歌混じりにサラダを持って行く。


 その鼻歌は寝室に居るリヒトの耳にも聞こえたようで、パチリと目を開けた。


「あー」


 まだ寝がえりもできないリヒトが大好きな両親を呼ぶ。


「あーう?」


 しかし、いつもならトワイトがすぐに覗き込んで来てくれるのだが今日はそれが無かった。トワイトが居なければディランが見るので、声を上げれば抱っこしてもらえると思っていた。


「あうあー……」


 まだ外も暗いため部屋もリビングから差し込んでくる明かりのみ。いつも枕元に居てくれるペット達も今日は一羽も居なかった。


「あー……」


 静かな部屋で声を出すも誰も来ない。賑やかな毎日なのに、今日に限ってはリヒトが寝ているからと出払っていたので仕方がない。

 だが、リヒトにそれが分かるはずもなく、段々と心細くなってきた。

 

 そして大きく息を吸う――


「あああああああああああん! ああああああああ!」


 次の瞬間、火がついたように大声を上げて泣き出した。

 おむつが汚れていても、騎士達や村人を見ても泣かなかったリヒトが、とんでもない声量で泣いた。


「おう!? なんじゃ今のは? リヒトか?」

「こけー!?」

「「「ぴよー!?」」」

「おお」


 それは畑に行っていたディラン達にも聞こえており、トウモロコシを見てホクホクしていたペット達は大慌てで家の中へと駆けだした。

 もちろん一番近いトワイトもびっくりして寝室へと入っていく。


「あああああん! うああああああ!」

「あらまあ、珍しいわね。リヒト、お母さんですよ」

「あああああん! ……あー♪」


 トワイトが顔を覗かせて頭を優しく撫でると、ピタリと泣き止み笑顔を見せた。

 続けて少しでも速く移動しようとジェニファーの背に乗ったひよこ達が到着した。 

 階段を駆け上り、三羽がリヒトの顔に向かう。


「ぴよっ!」

「あーう! きゃー♪」

「ぴよー♪」

「ぴー」


 いつもの三羽を見つけた途端、リヒトはさらに大喜びしていた。手を伸ばしてひよこを掴むと自分の脇へと持って行く。


「あーう♪」

「良かったわね、みんな駆けつけてくれたわ♪」

「あー♪」

「ぴよー!?」」


 大興奮のリヒトがレイタを振り回し、くたくたになった。そこへディランも戻って来た。


「もう泣き止んでいるのか。なんだったんじゃ?」

「うふふ、寂しかったみたいですよ。今度から離れる時はひよこ達か私達のどちらかを置いて行った方がいいかもしれませんね」

「そうじゃのう。というかリヒトは甘えん坊さんじゃな。男の子なのに将来、男らしくなるか心配じゃ」

「いいじゃありませんか。元気で優しい子になってくれれば言うことはありませんよ」

「しかし……まあ、赤子の時だけかもしれんし、いいか」

「はい♪」


 ディランは頭を掻きながらそう言うと、トワイトは微笑みながら返事をした。

 そしてその日のリヒトは、眠るまでずっとひよこ達やジェニファーを手放さなかった。

 リヒトはディランの膝に座り、ひよこ三羽をを自分の足の上に置き、ジェニファーをずっと撫でていたのだ。

 ペット達も嫌がらずにリヒトの傍を離れなかったとさ。


「あーう♪ あー♪」

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