第5話 竜、人間の子を拾う

「はいはい、みんなご飯よ」

「こけー」

「「ぴよー」」


 村からペットをもらってからしばらくが経った。

 家でお茶を飲んでゆっくり過ごす毎日と違い、妻のトワイトはペット達をよく構うため里に居た時より体が動くとディランは感じていた。


「うふふ、可愛いわね」

「まあ、こういのもアリじゃわい」


 食事の様子を二人は穏やかに見ていた。

 小屋は家の真横に作り、自身の鱗や古くなった爪や牙を用いて動物や魔物が入ってこれないように柵も設置した。

 ただ、ニワトリ達は気にしていないが、ドラゴンの気配がするこの場所に踏み込むものは誰も居なかったりする。

 里に居る時は喋り友達や人間の作ったゲームで遊ぶといったこともあったが、今は妻と二人だけなのでニワトリ達を連れて周辺の散歩などで楽しんでいた。


「ぴよー」

「あら、もういいのトコト」


 餌のトウモロコシを食べ終えたひよこの内、一羽がディランの足元へやってきた。

 名前はトコトといい、雌だった。名前はトワイトが名付けた。

 残り二羽はそれぞれレイタ、ソオンといい共に雄鶏である。


「ん? 肩に乗るのか?」

「ぴー」


 ディランが手を出すと、トコトは手を伝って一気に肩まで駆け上っていく。

 そしていい位置を見つけたトコトは一息ついて食後の一休みを決め込んだようだ。


「まったく、いい身分じゃのう」

「可愛いからいいじゃありませんか。レイタとソオンはやっぱり男の子ね、元気に走り回っていますよ」

「言うてひよこじゃけどな」


 お尻をふって歩く姿が可愛いとうっとりするトワイト。ディランは肩のこいつを探しているなと考えていた。

 

「ふあ……今日は薪でも集めてくるかのう」

「畑は作らないんですか? 私は川へ洗濯に行きますけど」

「そうじゃった、畑も作ると話しておったのう。歳を取ると物忘れが起きるわい」

「ふふ、まだまだ時間はたくさんありますしいつでもいいですけどね。私はついでに今晩のおかずを獲ってきましょうか」

「頼むわい」


 トワイトはひよこを可愛がるが、食べ物は食べ物として割り切る性格で、まあまあ見た目の可愛いキラーラビットや、ジャイアントタスクといった魔物や動物を狩る。

 美人でもドラゴンの変化した姿なのだ。

 

「では、行ってきますね。お魚が獲れたらいいのだけど。いきますよジェニファー」

「こけ」

「ぴよ」

「気をつけてな。では戸締りをしてわしも行くか」


 先に洗濯物を持ったトワイトがジェニファーとソオンを連れて川へと向かった。

 見送った後、薪を入れる籠を担いでからレイタとトコトを肩に載せて山奥へと歩き出した。


「落ちるなよ?」

「ぴー」

「ぴよぴよ」


 右と左に座ったひよこは元気よく鳴いていた。バランス感覚がいいのか落ちる気配はない。

 ディランは苦笑ながらそのまま歩いていき、手ごろな木がある場所に到着した。


「危ないから降りるのじゃ。遠くへ行くなよ」


 ひよこ達をそっと地面に降ろしてからディランは腕を振り回して木の前に立つ。


「さて、一本頂くぞい」


 そう呟いた瞬間、右手首から先がドラゴンの物へと変化した。身体の大きさを自在に操れる彼は鋭い爪のみを肥大化させる。

 人差し指に爪を木に当ててスッと横にずらすと、その部分がキレイに切断された。


「よっと。まあまあでかい木じゃな。バラしがいがあるわい」

「ぴよー」

「ぴぴー」


 近くの岩の上で仲良く並んび、彼を称賛するソオンとトコト。それを見てディランがフッと笑いながら呟く。


「確かにあれは可愛いかもしれんわい」


 自分の息子が雛だった時もあんな感じでぴーぴー鳴きながらトワイトを呼んでいたなと思い出す。

 なるほど、子供というのはどの種族でも可愛いのかもしれないと思いながら作業に戻る。


「それ!」

「ぴー!」

「ほい!」

「ぴぴー!」


 木を薪にするたびひよこが声を出すので面白くなっていた。そろそろ一旦集めるかと思ったところで鼻先に冷たい感触があった。


「む、雨か。先ほどまで晴れていたのにのう。山の天気は変わりやすい、か。トコト、ソオン来るんじゃ」

「「ぴよぴよ」」


 ポツポツと降って来た雨を見て、こういうものだと呟いた後にひよこ達を回収して懐に入れた。

 濡れないように上着を被せた薪を小脇に抱え、切れなかった大木も担いでから家へと向かう。

 しかし、すぐに雨脚が強くなってきた。ディランは空を見上げてから口を開く。


「魔法を使うか」

「ぴよー」


 瞬間、ディランの周囲に魔法陣が浮かび上がり雨を弾き始めた。いわゆるバリアのようなものである。

 そのまま自宅へ到着すると、ちょうどトワイトも帰って来たところだった。


「あ、ちょうど一緒になりましたね」

「じゃな。中へ入ろう」


 洗濯はギリギリ終わったと告げるのを聞きながらディランは鍵を開けて中へ入る。

 薪を暖炉に入れて火をつけていると、ペット達がそれぞれ散っていく。


「折角お洗濯をしたけど干せないわね」

「暖炉で乾かせばええじゃろ。さて、水でも持ってくるか。……む」

「あなた……!」


 自分達とペット達に水を持ってくるかとしたその時、微かに声を聞いた。トワイトに目をやると彼女も聞こえていたようだ。

 

「……見てこよう」

「一緒に行きますよ。あなた達、大人しく待っていてね」

「こけ!」


 ジェニファーが任せて欲しいといった感じで鳴き、ディランとトワイトは雨の中、外へと出ていく。

 雨に濡れることはなく、滑って転ぶこともない二人は、大雨の中でも微かに聞こえてくる声を逃さずその方向へと進んでいく。


 そして――


「ふぎゃあ! ふぎゃあ!」

「な……!?」

「あ、赤ちゃん!?」


 ――崖の下、雨を逃れられるところに赤んぼうが居た。まだ産まれて間もないようで、泣きじゃくっている。


「ああ、可哀想に……どうしてこんなところに……」

「む、トワイトよ手紙が入っておるぞ」

「本当ですね。ほら、もう大丈夫ですよ」

「だー」


 トワイトはすぐに抱きかかえてあやすと、赤ん坊は泣き止み、彼女の顔をじっと見つめていた。

 その間、ディランが手紙を手にして内容を確認する。

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