第4話 竜、村人と仲良くなる

「これは幻と言われた宝石、火竜の涙だぞ! あんたどこでこれを……!?」

「なんじゃいそれ?」


 さて、村のおばさんが立ち去った後、残された二人はひよこを受け取れていないため待っていた。

 しばらく待っていると、数人の村人と一緒に戻って来て、その内の一人に驚かれたところである。

 そこでトワイトがディランに耳打ちをした。


「あれはどこで手に入れたものでしたっけ?」

「どこじゃったかのう。……あ!」

「思い出しましたか?」

「どうしましたか?」


 少し考え込んだ後、ディランはポンと手を打って声を上げた。

 トワイトと宝石に詳しい村人が首を傾げていると、ディランは冷や汗をかきながらトワイトへ耳打ちをする。


「あれ、あいつじゃ。ボルカノの胆石じゃ」

「ああ、フレイムドラゴンの」

「うむ。大喜びで取れたとわしの家に見せに来た後、忘れて行ったやつじゃわい」

「ふむ」


 胆石ではあるがそこそこ大きく、鮮やかな色をしているので宝石に見えなくもない。さらに鉱石のように硬いため、装備品や工芸品に使えるのだ。

 下界にもあることに驚いたディランだが、炎属性のドラゴンが胆石を取り除いて捨てたのだろうと推測した。


「とりあえず、そいつは譲ってもいい。代わりにひよこを譲ってもらえるかのう」

「そりゃもちろん構いません。で、少し話しあって他にも必要なものがあれば無理のない範囲で差し上げてもいいと思っています」

「町に行って査定してもらったらいい金になりそうだからね。まあ、そこまで困っているわけじゃないから、お隣さんのよしみってやつさね」

「まあ、ありがとうございます」


 宝石を手にした男と、先程のおばさんが笑顔でそう言う。するとトワイトは両手を合わせてから喜んだ。


「とりあえずひよことニワトリはプレゼントするとして、野菜はいけるな? 米とかもだな」

「肉は? 牛一頭もいいんじゃないか?」

「ああ、そこまでせんでも大丈夫じゃて。それより、また困ったことがあったら頼らせてくれるかのう」


 ディランがそこまではと遠慮したところで、村人たちは目を丸くして驚く。そこでおばさんが口を開いた。


「こっちはいいけど、構わないのかい?」

「ええ! 元々ひよこちゃん達が欲しかっただけでもの。お金になりそうなものは持っていますし、もしかしたらそれを売りに行っていただくとかもお願いするかも?」

「これじゃ」

「「「うおお……!?」」」


 ディランがカバンからいくつか宝石を取り出して見せたところ、村人たちから感嘆の声があがる。宝石に詳しい男は眼鏡を上げながら興奮気味に言う。


「こっちはアクアマリン……でかっ!? エメラルドにダイヤ……」

「あ、あんた達何者なんだよ。こんなの持ってたら盗賊に狙われるぞ」

「ん? まあ、さっきも言ったが、里を追われてあそこの山に引っ越してきたんじゃ。なあに、人間の盗賊などわしらを倒すことなどできはせんよ」

「大丈夫かい? 奥さんは美人でキレイだし、気をつけなよ」

「ありがとうございます。こんなおばあちゃんにそう言ってくれて」

「?」


 いい村人たちのようでディランとトワイトに忠告をしていた。もちろんドラゴンである二人がそう言われてもピンとくるはずもない。トワイトは美人と言われて顔が綻んでいた。


「そうじゃな。わしは腕が立つ。もし、村がピンチになったら呼びに来てくれ。手出すけをさせてもらうぞい」

「あ、ああ。そんなに自信があるのかい……?」


 ディランがにこっと歯を見せて笑うと、若い男が恐る恐る聞いてきた。


「うむ。そうじゃのう……あの丸太を斬ってもいいか?」

「え? ああ、薪にするからいいよ。力自慢かな」

「ふん!」

「うおおお!?」


 薪を作るための丸太を斧ではなく、手刀で一閃。きれいに縦割りをしてまっぷたつになった。


「という感じじゃ」

「すげえ……」

「なんだこの男……」

「あははは、豪快な男でいいじゃないか! まあ、でも気を付けるんだよ? それじゃ奥さん、ひよこを選んでおくれよ」

「あ、はーい」

「待っとるよ」


 驚愕している男達をよそに、おばさんは笑いながらトワイトを庭に連れて行った。ディランは興味がないためその辺で休ませてもらうことにする。

 

「ぴよー」

「こけー」

「うふふ、可愛いですね。私に懐いた子を連れて帰りましょうか」


 庭に入り、放し飼いになっているひよこ達を見てトワイトの顔が綻ぶ。しゃがんでからチッチと指を動かすと、数羽のひよこが寄って来た。


「ぴよ」

「ぴよぴよ」

「ぴ」

「一緒にいく?」

「「「ぴよ」」」


 寄って来た三羽がトワイトの手に乗って来たので声をかけると、きれいにハモっていた。


「ではこの子達をもらいますね」

「三羽でいいのかい? ニワトリも連れていっておくれよ」


 そっと両手に三羽を乗せてそう言うと、おばさんはニワトリを連れて行けと言い、手を叩いた。


「こけ」

「ニワトリの雌だよ。また欲しくなったらおいで、これだけ居るからまた生まれるだろうし」

「はい! ジェニファーさん、よろしくお願いしますね」

「こけ!」

「ジェニファー!? もう受け入れているし!?」


 トワイトはさっそくニワトリに名前をつけて、ジェニファーと呼ばれたニワトリは元気よく返事をした。

 本能的にドラゴンという強者を察したニワトリが言うことを聞かないわけが無かった。


「では帰りましょう。ありがとうございます奥様」

「ははは、奥様なんてむずかゆいね。旦那は強いみたいだけど、本当に気を付けるんだよ」

「ええ。あなた、帰りましょう」

「もういいのか? おお、元気がいいな」


 トワイトはニワトリたちを抱えて外に出ると、ディランに声をかけた。

 ディランが足元にやってきたジェニファーを掲げていた。


「では、またよろしく頼むぞい」

「またなー! 今度お邪魔させてくれ!」

「いつでもいらしてくださいね」


 二人は目的を終えて村を後にした。ご機嫌なトワイトを見て、ディランが口を開いた。


「なかなか良い人間たちじゃったな」

「ええ。ほら、こんなに可愛い子をもらいましたよ!」

「帰ったら飯にしようかのう。色々もらったし」


 そんな話をしながら山を登っていく二人であった。

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