第9話 竜、ありがたがられる
「おや、この前の」
「あら、こんにちは♪」
移動中、ニワトリとひよこを譲ってくれたおばさんと出会いお互いに挨拶を交わしていた。
「久しぶりだねえ、元気そうでなによりだよ。というか赤ちゃんかい?」
「ええ。山に捨てられていたのを拾ったんですよ。可哀想なことをしますよね……」
「捨て子とは穏やかじゃないねえ……まあ、貧乏な家とかならあり得なくはないけど」
「珍しくないんじゃのう」
「他にもあるけどさ」
おばさん曰く、仕方なく捨ててしまうということはあるという。お金の問題、家柄の問題なども該当するとのこと。
「妾の子だからって捨てるのは許せませんね!」
「あーうー」
「ぴよー」
「ああ、ごめんなさいリヒト、大きい声を出しちゃったわね」
「おや、ひよこも一緒にいるのかい? 随分懐いているじゃないか。赤ん坊は可愛いねえ」
おばさんが目を細めてリヒトの手を取って揺らすと、キャッキャッと笑っていた。
そこでディランが口を開いた。
「ドガという者を探しておるのじゃが、知っておるか?」
「ああ、そこの家だよ。一緒に行こうか」
「お願いします」
おばさんが知っていると案内してくれることになった。歩きながらこの前のことを話しだす。
「この前の宝石ね、ここに来る王都からの行商人に見せたらかなりの価格で買い取ってくれてねえ。村のみんなで分けたよ」
「それはなによりじゃ」
「行商人さんが来るんですね。私達もこの子のためにお金をもっておかないといけないと思い始めていたからいいことを聞きましたね」
「お金、本当に持っていないんだね!? まあ、そこは後で話があるんだよ。さ、ドガの家だ」
お金がないことを笑っていたトワイトへおばさんが驚愕の声を上げていた。ドラゴンは金銭でやり取りをしないことは知らないので仕方のないことではある。
ついでに気になることを言っていたがそれはドガの家へ到着したことで一旦打ち切られた。
「ドガ、お客さんだよ」
「立派な牛さんがいますねーリヒト」
「あうああ♪」
おばさんが玄関の戸を叩き声をかける。
近くには柵に囲われた牛の広場があり、放牧されている牛へトワイトとリヒトが手を振っていた。
そんな中、家の戸が開いて人が出てきた。
「誰かと思えばガレアさんかい。どうした? ん? そっちは……」
「この二人があんたに用事があるってさ。ほら、火竜の涙とかって宝石を置いて行った」
「おお! 凄い夫婦か! いやあ、あれの分け前のおかげで息子の誕生日にケーキを買えたんだよ。会ったらお礼を言おうと思ってたんだ」
「それは良かったです! ねえあなた」
「じゃのう。役に立てれば幸いじゃ。ついでに一つお願いをしたいのじゃが、いいかのう」
ドガの家は分け前でもらったお金で息子にいいものを食べさせることができたと握手を求めてきた。ディランは微笑みながらここへきたお願いをする。
「なんだい?」
「牛のミルクを分けて欲しいのじゃ。この子に飲ませるのが無くなってしまってのう」
「そりゃ構わないけど……お母さんは出ないのか?」
「私はもう五百年位に下の子を産んでから出なくなりました。この子は拾った子なので」
「五百……? ま、まあ、そういうことなら全然いいよ」
トワイトが困ったように五百年前のことを口にし、ドガとガレアが首を傾げていたが、ミルクが欲しいのならそれは構わないという。
そこでディランがアロウイーグルを差し出した。
「代金がないのでこいつでいいかのう」
「でかっ!? アロウイーグルか……? 丸々一羽だと結構な額になるんだが……」
「たまたま倒した個体じゃからな。出せる分だけでええぞ」
「ええー……」
ドガは大雑把すぎる言葉に呆れながら苦笑していた。
対価としては十分すぎるため、ディラン達がもってきた入れ物以外に別の入れ物を用意してくれた。
「ミルクは日によっちゃ余るからな。定期的に尋ねてきてくれれば渡せるよ」
「こんなにええのか? 良かったのう」
「そうですね」
「こっちもこんないいモノを貰ったし、助かるよ。またミルクが欲しかったら言ってくれよ」
アロウイーグルを手にしたドガが歯を見せて笑い、また来てくれと言う。ディラン達もいいミルクが手に入りホクホク顔だ。
ドガの家を離れたところでガレアが二人へ言う。
「そうそう、さっきの話の続きだけど行商人さんがあんた達に会いたいって言ってたんだよ」
「ふむ?」
「私達にですか?」
意外なガレアの言葉に二人は聞き返す。
「そうそう。なんだか珍しいものを持っていたって話をしたら食いついてね。もし目当てのものがあれば買い取りたいと言っていたよ」
「まあ。それならお金の問題が解決するかもしれませんね」
「ありがたいが、金銀財宝くらいしかないぞ」
「金銀財宝は『くらい』ってレベルじゃないと思うけどねえ。いつも来る行商人さんは信用できるから買いたたくって人間でもないし気が向いたら会ってあげてよ」
「承知したぞい」
次に来るのは三日後だとのこと。
その時にまた来るかなどと話しながら村の出口へと向かう。
「また来ますね! 今度は羊毛も欲しいし、なにか作って持ってきましょう」
「子育ては大変だから無理するんじゃないよ?」
「まあ、三人目じゃから大丈夫じゃろう。ではな」
そう言って再び村を後にした。
トワイトはなにかを思いついたようで、帰りはニコニコと終始笑顔だった。
リヒトは美味しいミルクを飲むことができ、みんな満足したお散歩だった。
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