5章 Twitterと焼肉と装甲手袋(1)
焼肉が食いたい。そういう気分の時って、あるよな。
東京都中央区銀座。
心音と共に銀座駅で降り、俺は目的の焼肉屋を発見する。見るからに高そうな外観をしている店だ。
店名は『松阪牛専科』そこは芸能人が通う店として度々SNSでも話題になる、有名な高級焼肉店だった。
躊躇わず俺は心音をつれて店の扉を開ける。店員達が俺を見て、一斉に困惑した顔になる。
……まぁ高級焼肉店に制服姿の高校生とスーツとは言え同い年ぐらいの少女が来店するのは違和感バリバリだろう。俺自身めっちゃ浮いてると思ってる。
店員の一人が見かねて「お客様。この店は少し予算が必要なのですが……」と俺に声をかけてきた。
俺は言う。
「要するに金は持ってるのか? って話だろ。心配すんな。金ならある!」
と言って俺は、帯のついている百万円の束をポケットから出した。
唖然とした顔で固まる店員。
俺は百万円の束で店員の頭を叩く。
「おら客が来たんだから、さっさと案内しろっての」
流石の店員もそれ以上は何も言ってこなかった。
中庭のある店内を案内され、俺達は個室に通される。
テーブルに置かれたメニューを見るが、達筆すぎて読めない。読めないメニューに何の意味があるのかと思うが、まぁ高級感を出すには必要なのかもしれない。
とりあえず俺は一番高いメニューにしようと思う。
まぁ高いとは言っても十万円ぐらいだ。
品目も多くはなく、メニュー表の全てを頼んでも八十万円ぐらいだろう。
迷わず、俺は全て注文する。
ツイッター映えを考えると、全品注文は譲れないところだった。
暫くして無駄に豪奢な皿に盛られた肉が大量に運ばれてきた。
店員が、これは松坂牛のA5ランクで……等と説明をしているが、俺には全く興味がないので聞き流す。
飯は旨ければ、それで良いんだよ。
俺がスマホでツイッターを確認。すると昨日の心音とピザを食べている写真の投稿に、
――――お前リア充じゃん! 陰キャって設定はどうした!?
――――これは何かのトリックですよね?
――――嘘だッッッッ!!!!! 僕の気持ちを裏切ったな!?
……などとクソみたいな返事(リプライ)が沢山ついていた。主に日頃、絡んでいる名探偵クラスタの性格の悪い陰キャな面々である。
いい感じにフォロワーにマウントを取れて俺は満足する。とても愉悦だ。
追い打ちをかけるように肉の皿で埋まったテーブルの写真を撮り、俺はツイッターに投稿した。
ツイッターでやる事をやった後、俺は肉を焼いて口に運ぶ。
舌の上で肉が溶ける。芳醇な赤身に、上品な脂質。豊かな肉の旨味が口の中に広がった。
……これは本気で旨いやつだ。
とは言え、さすがに全品注文はやりすぎた。確実に俺一人では食い切れない。
俺は心音に勧める。
「心音も食えよ。てか食べて。ちょっと俺一人じゃ量が多すぎたわ」
「はぁ。じゃあ残すのももったいないですし、私も頂きます」
焼肉を食べた心音が目を輝かせる。
「あ! このお肉、めっちゃ美味しいです!」
……なんか心音の嬉しそうな顔、初めて見たかもしれない。
デスゲームにて点数の無限増殖法を編み出した俺は、一点百万円というルール通りに換金。無限に現金を得ることのできる俺は、ブルジョアな天才名探偵と化していた。
さきほどツイッターに投稿した焼肉の写真も、順調にバズり始めている。
腹も承認要求も満たされ、とても幸せな気分だ。心が裕福になる。
やはり現金。現金こそが正義。
ありがとう社会。
俺は焼肉と共に幸せを噛みしめる。
その後、焼肉を食べながら俺が秋葉原で箱買いしたTCGの開封の儀をやっていると、インカムから杏が話し掛けてくる。
『兄、お金なくなった。お金ほしい』
当然、功労者である杏にも現金は渡していた。
俺は応じる。
「さっき五百万円を送金したばかりじゃね? 使うの早すぎないか? 何に使ったんだよ」
『推しのVとソシャゲに課金したら秒で溶けた。兄、わたしお金大好き。もっとほしい』
「わーったよ。とりあえず肉を食い終わったらまたATMを探してお金は下ろしてくるから……」
俺達兄妹がそんな話をしていると、心音がおずおずと声をあげる。
「あのー……一応これデスゲームなので、ちゃんとデスゲームしてもらわないと困るんですが……」
「え? デスゲームって何だっけ?」
心音が泣きそうな顔になった。
俺は慌てて言い直す。
「いや冗談、冗談だってば。いやだってさー、もう全然誰も襲ってこないし。どうすっかなーと思って」
俺を標的としたイベント戦は、まだ継続している。
しかし昨日の夜を最後に、今日は誰も襲ってこなかった。
……たぶん、昨日やりすぎたんだと思う……。
デスタブのデスゲームSNSで、他プレイヤーの勝敗が解るようになっている。
あれだけ短時間で連勝してしまえば、当然、他のプレイヤーは警戒して俺を避けるだろう。
いやでも、これは少し困った。
こうなってしまうと、後は俺から積極的に戦いを挑むしかないのだが……なんていうか、とても面倒くさかった。
誰か襲ってきてくれたほうが楽でいい。
そう思うがこのデスゲームには制限時間があった。悠長にしている時間もそこまでなく、何とかしなければならない。
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