2章 マーダーノットミステリー(3)
心音が肩をすくめる。
「ちなみに制限時間はあと十分です。射殺されるかパラシュート無しで飛び下りるか選んで下さい。あ、でも飛び下りればワンチャン助かるかもしれませんよ」
いやいや、ご冗談を。無理だろ普通に。
杏の情報だとこの輸送機は高度四千メートルにいる。流石にパラシュートなしでは助からない。
となると、俺が生き残る方法は一つしかない。
俺は心音に向き直る。
「残念だが俺は飛び下りるつもりも、射殺されるつもりも毛頭ないんだが?」
「ではどうするんです?」
その問いに、俺は不敵な笑みを浮かべる。
「簡単は話だ。ここでお前を倒してしまえばいい」
「……その場合はルール違反と見做します。飛び下りないのなら、どっちに転んでも射殺ですね」
残念そうな顔で、心音が俺に黄金銃を向ける。
引き金に指をかけながら、心音は続けた。
「最後に名前ぐらいは聞いておいてあげます。貴方の名前は? 高校生ですか?」
「俺の名前か? 俺の名は――――」
そして俺は決め顔で言う。
「――俺の名前はジェノサイド江戸川。探偵さ」
……。
ややあって、心音が半眼になる。
「嘘ですよね? なんですかその殺人鬼だか名探偵だか解らない名前は」
「どうして嘘だと思うんだよ。さすがに失礼すぎないか?」
「……デスゲーム運営は身辺調査をした上で、プレイヤーを選考しています。調べればすぐ解る話なので、こんなところで嘘を吐いても仕方ないですよ?」
「じゃあ調べてみろよ。本当だから」
心音はスマホを取り出して叩き、驚愕する。
「……嘘でしょ。本当に本名がジェノサイド江戸川で登録されてる。こんなの絶対に偽名に決まってるじゃないですか」
「お前さ、どうしてそれが偽名だと決めつけるんだよ。全国のジェノサイドさんに土下座して謝れよ」
俺がそう煽ると、心音はムッとした顔となった。
心音が黒服に視線を向ける。
「ちょっと操縦席に行って運営に、あいつの名前をもう一度調べるよう言ってもらえますか?」
黒服は頷き、前方の鉄扉の奥に引っ込んだ。
俺と心音、二人だけとなる。
思わず、俺は失笑する。
「……馬鹿かよ。犯人が名探偵と対峙して、目を離すなんてさ。デスゲーム司会だか何だか知らないけど、犯罪者としてはお前三流だな」
心音が俺を睨んでくる。
「それはどういう意味です?」
「マーダーノットミステリーだか何だか知らねえけど。こんなクソゲー、俺が全て徹底的に切り刻んで潰して壊してワゴンセール行きにしてやるって話だよ。……ところで大丈夫なのか?」
「何がです?」
「後ろ後ろ。火事じゃね?」
と、ここでようやく心音は気づいたらしい。
心音の背後から物凄い勢いで白煙があがっていた。
……種をバラすと、俺の探偵七つ道具の一つ煙幕弾である。さっき心音が俺から視線を外した隙に、床を転がすように投擲していた。
他プレイヤーから強制徴収したタオルが巻き付けてある上、さらに輸送機のエンジン音もあって、発煙弾の転がる音には心音も黒服も全く気づいていなかった。
後方のハッチから風が流れ込んでいるとは言え、発煙弾の煙は機内の前方で充満する。
心音は慌てた様子になる。
「ええええっと、火を消すには消火器ですよね……? 消火器はどこにあったっけ……」
「お前、本当に馬鹿だな。本当の火事ならもっと煙は黒いよ。こんな白くねえよ」
「―――えっ?」
心音は驚いた様子で目を見開いた。
俺の言葉に驚いた訳ではなく、俺の声が目前から聞こえた事に驚いたのだろう。
混乱した様子の心音との距離を難なく詰めた俺は、そのままスタンロッドを心音に突き刺した。
電流が流れ、意識を失った心音が力なく俺の方に倒れ込む。俺が抱き止めると、心音の持っていた黄金銃が床に転がる。黄金銃を拾い上げながら俺は考える。
さて、問題はここからだ。
脱出する方法がない以上、俺に残された手段はこの輸送機を制圧してしまうしかない。
ただ輸送機を制圧して地上に降りたとしても、この首輪がある以上、デスゲーム運営は俺をいつでも爆殺できる。
まずこの生死与奪を握られた状態から抜け出さなくてはならない。
と、ここで俺は解決策を思いつく。
明らかに普通ではない黄金銃を持つデスゲーム司会の少女、姫野心音。
先ほどの黒服の言葉からも、この少女がデスゲームで重要な立場にいると推察できる。
つまり――――。
「動くな」
突然、俺の後頭部に冷たく堅いものが押しつけられた。
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