4章 瞬殺推理『ワンターンキル』(6)

 当然、碧の得点増殖行為はデスゲーム運営も掴んでいた。

 会議室で煙草の黒服が叫ぶ。


「ダメ! 絶対! それだけはやっちゃ駄目なやつ! あのクソガキが倒したプレイヤー全員のデスタブを遠隔でロックしろ! あと警告を出せ!」


 坊主頭の黒服が慌ててパソコンを叩き、システムにて碧の持つ他プレイヤーのデスタブをロックする。



「あ、動かなくなった」


 二十五番のデスタブが急に操作できなくなり、俺は呟く。

 ついでに俺のデスタブに通知が入った。

 貴方の行為は不正です。ただちに止めて下さい。警告に従わない場合は処刑します……とデスゲーム運営から警告が入っている。

 俺は鼻先で笑う。


「なーにが処刑だよ。やれるもんならやってみろって言うんだクソボケが。おい杏、このデスタブのロック、ハッキングして外して動かせるようにしてくれ。首輪はダメでもタブレット端末ははいけるんだろ?」


 ボイスチャットで杏が応じる。


『おけおけ。ついでにその得点増殖法なんだけど、タイパよく出来るようにプログラムで自動的に実行するツールを組んだ。後は放っておけば寝てるだけでゲームクリアしないギリギリまで点数が増える』


 杏のハッキングでロックが解除され、二十五番のデスタブは再び動かせるようになる。

 二十五番のデスタブ画面を見ると、もはや俺が操作する必要はなく自動でプログラムがSNSを動かしていた。


 全自動デスゲーム得点増殖、無限機関の完成である。


「杏、お前さ。本当にいい仕事するよな。ズルすることにかけては世界で一番のお姫様だと思う。惚れ惚れする」

『そんな褒めるなよ兄、照れるぜ』


 珍しく、ボイスチャットの向こうで杏が恥ずかしそうな声を上げた。

 半分皮肉で言ったんだが、杏が嬉しそうなのでヨシとする。

 俺は話を戻す。


「……このゲームってルール見る限り時間切れになると上位五人が生存で、同点同順位は全員セーフなんだろ? だったら全プレイヤーを倒してデスタブを奪って、この得点増殖法で点数を調整、全プレイヤー同点一位で時間切れを迎えれば全員死なずにクリアな訳だ」


 心音は応じる。


「……いやまぁ理論上はそうですけど……。え、本気でやるつもりですか?」

「俺は天才名探偵だぞ。――――不可能はない」


 と俺はキメ顔でそう言った。



 会議室にて坊主頭の黒服が独りごちる様に言う。


「これは酷い」


 ……正直、僕も同じ感想だった。


 これは酷い。そうとしか言いようがない。

 デスゲームは完全に碧の独壇場となっていた。もはやデスゲームの体を為していない。

 煙草の黒服が叫ぶ。


「こんなの絶対おかしいよ!? 最近の子どもはすぐにハックとかコスパとかタイパとか言いやがって! これ普通に犯罪だろ! 詐欺とか泥棒とか、そういう類いの悪だよ悪! あのクソガキを許すなッ!!! 誰か何とかしろ! うううっ……」 


 嗚咽を漏らす煙草の黒服。

 そんな彼を天然パーマと坊主頭の黒服二人は、デスゲーム運営が何言ってんの、と言いたげな視線を送った。

 天然パーマの黒服が言う。


「って言うかさ。殺人の失敗で五点減点、防衛側は六点加点……って、このゲームなんでこんなルールにしたんだよ? 両方とも同じ点数にしとけば点数増殖なんてされなかっただろ」


 坊主頭の黒服が答える。

「運営側としてはプレイヤーには防衛ではなく、積極的に殺人予告をしてほしい……という意図があった。だからプレイヤーが殺人予告を出す精神的ハードルを下げるために、失敗したときの点数を一点分下げている」


「精神的ハードルとか、難しく考えすぎじゃねえの?」


 そんな天然パーマ、坊主頭二人の黒服の会話の横で、煙草の黒服が床に崩れ落ちた。

 そして煙草の黒服は、泣きだしてしまう。


「……こんなのチートだよ。なんなんだよ……デスゲームだから普通に殺し合ってくれよ……得点増殖とかバグ技みたいな事するの止めてくれよ。お願いだよ……」

「あーあ、泣いちゃった……」


 天然パーマの黒服は他人事の様に言った。

 デスゲームはもはや、碧という天才ならぬ天災のせいで自由落下を始めていた。

 そんな中、今まで黙っていたデスゲーム司会、心音の妹の姫野由岐がテーブルを叩く。


「私があのプレイヤー十三番を倒して、お姉ちゃんを助ければ良いんですよね! 事件は会議室ではなく現場で起きています! こうなったら私が出て行ってやっつけてきますです!」


 姉が人質にされて責任を感じているらしい由岐。

 幹部黒服の三人は誰も何も言わない。

 由岐の提案した打開策は正しい。ルール上、プレイヤーに手が出せるのは司会だけだ。

 正しいのだが、それが可能かどうかは別の話だ。

 恐らく、幹部黒服達はこう考えている。


 ……由岐が行っても、人質が増えるだけな気がする……。


 下手に由岐が介入しても、状況が悪化するのは目に見えている。

 やる気満々な様子の由岐に、坊主頭の黒服が目で合図した。

 天然パーマの黒服が頷き、屈んで由岐に視線を合わせる。


「ほら由岐。仕事はオジサン達に任せて、由岐はゲームでもして遊んでようぜ」

「あ。私、ゲームやりたいですっ! 先週発売した新しいソフトがほしいです! 買ってくださいっ!」

「携帯ゲーム機のソフトだろ? いいぜ、なんでも買ってやるよ。どうせ会社の経費で落とすしな」

「わーい! ありがとうございますっ!」


 目を輝かせた由岐は、そのまま天然パーマの黒服に連れられて会議室を出て行った。

 二人の背中を見送った後、坊主頭の黒服は神妙な面持ちで顎に手を当てる。


「……ゲームのソフトって、経費で落ちるんだろうか……?」 




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【あとがき】

 ここまで読んで頂き、ありがとうございます! 作者の枢木縁です。

 本作『横溝碧の倫理なき遊戯の壊し方』は9月25日にMF文庫Jより発売となります! ぜひぜひ書籍の方も、宜しくお願いします! 

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