4章 瞬殺推理『ワンターンキル』(3)

 その日の夜。再び碧を狙うプレイヤーが現れた。


 プレイヤー三十四番。彼は普通の社会人ではなく、海外の民間軍事会社に在籍、紛争に参加した経歴を持つ傭兵だった。本名は尾野清道。

 三十四番はこれがデスゲームだと知った後の行動が非常に的確だった。

碧とは別のグループで最初のイベント戦で生存した彼は、まず手持ちの点数一点を百万円に換金。日本で銃火器の密売をしている友人に連絡をとりスナイパーライフル、VSSヴィントレスを購入。金を振り込むのと同時にライフルを受け取った。

 そしてやはり友人が経営している興信所、要するに探偵に依頼して捜査、碧が今夜泊まるビジネスホテルと、その部屋を割り出していた。


 そのビジネスホテルの向かいには、同じくビジネスホテルあり三十四番はそこに部屋をとる。

 部屋に入って三十四番がベランダに出ると、道路を挟んだ向かいに碧が今夜泊まっているはずの部屋が見えた。

 手すりに体重を預けて、三十四番は独り言を呟く。


「……条件は生け捕り……だから狙いは足か肩か。まぁ手元が狂って死んじまったらそん時は残念……ってとこだな」


 三十四番はベランダの手すりに銃身を置いた。スコープで碧の部屋を覗く。

 碧が既に一人のプレイヤーを返り討ちにした情報はSNSのタイムラインに流れており、生存している全プレイヤーが把握している。

 三十四番はそんな碧を警戒、狙撃で倒すつもりのようだ。

 まだSNSで予告は出していない。まずはビジネスホテルのベランダに碧を誘き出し、照準を定めた後に予告を出すつもりだろう。

 イベント戦の達成条件は碧の生け捕りで、無傷である必要はない。足でも肩でも負傷させて無抵抗にしてから安全に捕まえる算段らしい。

 三十四番は煙草を吸って深呼吸した後、


「……それじゃ始めるか。悪いな少年、お前に恨みはないが、俺に狙われたのが運の尽きだったな」


 と呟いた後に再びスナイパーライフルを構えた。

 三十四番はまず、眼下の道路で走っていた自動車を狙い撃つ。VSSヴィントレスは消音狙撃銃であり、大きな発砲音は上がらない。

 タイヤを撃ち抜かれた自動車は制動を失って信号機に衝突。破壊的な音を盛大に立てて、わかりやすい事故が発生した。

 通行人は勿論、ビジネスホテルの利用客も事故を見るために続々とベランダに出てくる。

 三十四番はデスタブを片手にスナイパーライフルのスコープを覗き込み、碧がベランダに出てくるのを静かに待つ。

 そしてついに碧の部屋のベランダ、その窓が開いた。

 三十四番はデスタブで碧に生捕予告を出す。そして引き金に指をかけた。


 と、その時だ。

 唐突に電話が鳴る。

 それはビジネスホテルの部屋に備え付けられている電話機だった。

 狙撃を中断、三十四番は不審そうな声色で電話に出た。

 そして受話器から碧の声が響く。


『――よおプレイヤー三十四番、尾野清道さんよ。俺はお前が今まさに狙撃しようとしている十三番だよ。アンタは凄い良い線いってたな。このデスゲーム、アンタは勝ち抜けると思うぜ。まあ俺がいなかったらの話だが』

「……なん…だと……」


 三十四番は驚愕、咥えていた煙草を床に落とした。

 碧は言う。


『――お前の大きなミスは、お友達作りに失敗したこと。具体的にはライフルを買う人間を間違えたな。なんで名前や犯行がバレてるのか聞かれる前に答えてやるけど、お前はデスタブで点数を換金、コンビニのATMで金を下ろしただろ。換金するときに使った銀行アプリは、都内にある金融機関のアプリだ。

俺はこのデスゲームで銃火器を買うために点数を換金してるやつが絶対にいると思って、銀行の勘定系システムをハッキングして本日、この銀行アプリで百万円以上の払い戻しをした取引を調べた。それでコンビニの防犯カメラの映像と突き合わせて、お前を特定。

 それでお前、金を下ろした後にすぐ、よそに四十万円の振り込みをしただろ。

今度はその振込先の口座の持ち主をハッキングで調べて電話番号を特定、今してる電話みたいな感じで脅迫したら、あっさりとお前の名前もスナイパーライフルを売ったことも吐いたよ。

 で、購入したのがスナイパーライフルならやることは狙撃しかない。俺が今晩泊まるビジネスホテルの向かいには、狙撃がやりやすそうなビジネスホテルが丁度ある。

そこのホテルの予約履歴を調べたら、お前の名前があった……だんだん面倒になってきたから、説明はこんぐらいでいいか?』


 三十四番は何も言わない。凍り付いたように硬直していた。

 碧の言葉は続く。


「後学のために教えといてやるが。なんかお友達の探偵とかも雇っていたみたいだけど、友人が多いところで良いことなんて一つもないぞ。友達っていうのは一種の弱点なんだよ。だから友達が多いやつほど弱点が多いクソ雑魚ってことだ。そんな人生イージーモードな奴に俺が負ける理由はない。それじゃ、そういうことで」


 ……その碧の言葉は、やはり三十四番がいる部屋の奥から聞こえた。

 三十四番が振り向くが、もう遅い。

 碧がスタンロッドを突き刺す方が早かった。

 三十四番が床に倒れる。

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