4章 瞬殺推理『ワンターンキル』(4)

【防衛成功! おめでとう! 六点の獲得です!】


「……才能の暴力ですよ、こんなの……」


 綺麗に決まった俺の瞬殺推理を見て、心音は茫然自失気味にそう言った。

 手持ちの点数が二十三点となる。

 俺は気絶した三十四番を手錠で拘束、台車に乗せて搬送する。心音とビジネスホテルの自分の部屋に戻ると、そこには俺が出前を頼んでいたピザの配達員が来ていた。

 ……ちなみに出前を頼む際に、ベランダにいるからビジネスホテルの部屋に入って窓を開けてほしい、と依頼をしてあった。

 俺は代金を払い、ピザを受け取る。

 配達員が去った後、ピザの箱を開けて心音に言う。


「腹減ったろ。心音もピザ食って良いぞ」

「……いえ、私は結構です……」

「いいから食えって。遠慮しなくていいぞ。昼間に蕎麦を食べたっきりだろ。お前が動けなくなると俺が困るんだよ。ていうかこれビジネスホテルの宿泊代もそうだが、お前の財布から借りた金だしな」

「……普通に泥棒じゃないですか。返して下さいよ……」

「あーそうだ。二人でピザ食ってる写真を撮って、ツイッターに投稿してもいいか?」

「……そんな事してどうするんですか?」

「女子とピザを食べてるってリア充アピールして、ツイッターでフォロワーを牽制する」

「……貴方は一体、何と戦っているんですか?」

「俺は世界と戦っているんだよ。SNSってのはだな。キラキラした投稿をして、世界中の奴らとマウントを取り合う戦場なんだよ」


 心音の了解を待たず、俺は心音と写真をとった。

 そしてツイッターに投稿する。


 ◆


 その日の深夜。碧に三度目の殺人予告が入った。

 殺人を予告したのはプレイヤー五十五番、東郷琢磨だ。

 彼は反社会的組織の構成員、つまりはヤクザである。

 碧を狙うやり方も、とても直接的だった。

 まず五十五番は自分の所属する組織の仲間に連絡、デスゲームの事情を説明。仲間のヤクザを集めた。


 SNSで定期的に発信されるプレイヤーの位置情報から、碧のいるビジネスホテルに当たりをつけ、深夜にも関わらず仲間のヤクザとホテルフロントを襲撃。碧の情報を調べだした。

 碧の部屋番号を割り出した五十五番は、その足で部屋に向う。

 五十五番は五人の仲間を引きつれており、数は六名。それぞれ拳銃や短刀で武装しており、そのまま暴力で碧を捕まえるつもりらしい。

 拳銃でドアノブを破壊。そして碧の部屋に入る。

 五十五番はドスの利いた声を張り上げる。


「オラァ十三番のクソ坊主! ここにいるのは分かってんだ! 痛い目をみたくなかったら大人しく捕まれや!」


 部屋の中はどういう訳か、水浸しであった。

 六人のヤクザは気にすることなく部屋に入り、ベッドの上に座る碧と心音を発見。そして取り囲んだ。

 五十五番が口角泡を飛ばす。


「てめえ、デスゲーム中だっていうのに部屋に女を連れ込むとはいい度胸だオラァ!」


 碧が不敵に笑う。


「あー、お前らみたいな品格ない連中と話すつもりはないんだわ。生まれ直してから、またきてどうぞ」


 碧が電流の迸るスタンロッドを放る。

 それが床に落ちた刹那、床が青白い閃光を発した。

 床に撒かれていた液体は水ではなく、食塩か何かを混ぜていたのだろう。スタンロッドの電流が床を流れてヤクザ達が感電した。

 次の瞬間には、死屍累々と六人のヤクザが床に転がる。

 


【防衛成功! おめでとう! 六点の獲得です!】


 俺の点数が二十九点となる。

 五十五番のヤクザとその仲間達を手錠で拘束。

 動けなくした後、風呂場に蹴り入れた。風呂場にはこれまで捕まえたプレイヤー、他の二人も閉じ込めてあった。

 デスゲームが終わるまで、全員で反省会でもやっていてほしい。


「よし。これで三人目っと……」


 一仕事終え、俺がそう呟くと心音が声を上げる。


「……倒した他のプレイヤーどうするんです? 殺さないんですか?」

「そうだが?」

「どうしてですか? 殺さなかったら、もしも逃げられたらまた襲ってくるかもしれませんよ。もしかしたら今度は、自分が負けて不幸になる番かもしれない。そういう可能性は、一つでも摘んでおいたほうが良いのでは?」


 不思議そうに聞いてくる心音。

 幸福とか不幸とか、よくわからない事を気にするヤツだな……と思いつつ、俺は応じる。


「いやその時はその時で、また返り討ちにすればいいじゃん」

「……次もまた勝てるという保証はないですよね?」

「確かに保証は無いけど、勝てると断言は出来るぞ」

「どうして断言できるんですか?」

「俺は天才なんだよ。何度挑まれようが凡人には負けないっつーの。次は負けるかもしれないとか気にするの、才能のない弱者の発想じゃん」

「…………」

「それに返り討ちにした相手は殺さないといけない、なんてルールがあるのか? 俺の見た限りないと思うが」

「……いやルール的に問題はないんですけど。あのあの、これデスゲームなんで、ちゃんと真面目にデスゲームやってほしいんですが」

「真面目なデスゲームってなんだよ」

「……そう言われると困るんですが……真面目なデスゲームって、何なんでしょうね……」

「よくわからないこと言ってないで、少し寝とけよ。これは俺の直感なんだが、今晩はあと二時間後にもう一人ぐらい襲ってくる気がしてる」

「……貴方ほんとうに一体、何なんですか……?」

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