1章 横溝碧の日常(4)
賽は投げられた。
もう後には引けない、戻れない。
僕、セブンは薄暗く狭い部屋で後は碧をモニター越しに見守ることしかできない。
僕にとって碧は唯一の友人だった。
最後まで迷ったが、結局、僕は碧を巻き込んでしまった。
どれだけ謝っても許される話ではないだろう。
もしももう一度、碧に逢うことができるのなら。
そのときは死んで謝罪しようと思う。
……まあ僕みたいな偽物の命に、価値があるかは解らないけど……。
これから碧が参加するゲーム。マーダーノットミステリーはただの脱出ゲームではない。
殺し合いのデスゲームだ。
源氏ホールディングスが多大な予算を投下して開催している事業で、世界の権力者、資産家に向けた娯楽である。
デスゲームの関連施設やプレイヤーには全て監視カメラがつけられており、システムで管理されている。
それらはネットワーク専用線、独自のOSやアプリケーション等が使われており、強固な情報セキュリティが施されているが、僕にはシステムの管理者権限がありデスゲームでの全ての映像や音声を取得できる。
僕はパソコンを操作して、源氏ホールディングスの地下施設の映像を見る。
デスゲーム観戦会場である地下施設。
その地下二階に、この世とは思えない豪華絢爛な空間が広がっていた。真っ赤なカーペットにオーセンティックな家具が並んでいる。
デスゲーム開幕直前であり、部屋には招かれたゲスト達、世界中の権力者や資産家の姿があった。
肌や目の色は様々だが、その人間達のほぼ全員が煌びやかな衣装を纏っている。世界の大富豪ランキングに名を連ねている次元の人間達だ。
――人間は自分が幸福なだけでは満足できない生き物で、他人が不幸でなければ気が済まない。
残念ながら、それが人間の性質だった。
そこで、とある世界の支配者は考えた。
人の不幸を鑑賞する娯楽を作れば、儲かるのではないか?
人間にとって最大の不幸とは、死ぬことだ。
そんな倫理の欠片もない、収益性だけで開催されているのがこのデスゲームである。
デスゲームは開催される毎に内容がエスカレートしていき、誰が生き残るか賭けるギャンブルから始まり、最近では開発中の軍事兵器の試験や人体実験などを兼ねたゲームが行われ、源氏ホールディングスは毎回莫大な収益をあげている。
警察などの公安は当然、買収されており権力者への忖度により暗黙の了解で見ないことにされている。
利益追求を至高とした経済社会の末路だ。
と、観戦会場の大きな扉が開き、デスゲーム運営の黒服が入場した。
黒服は会場に設置されている巨大なモニターで、今回のデスゲームの概要を説明する。
デスゲームの名称は『マーダーノットミステリー』
新しい試みとして、現代のインフラであるSNSを利用するらしい。
参加するプレイヤーは六十人。デスゲーム運営の司会役は三人。
司会役のところで『姫野心音』の名前を見つけて僕は眉を顰める。
心音は、デスゲームの主宰者のお気に入りだ。
まさかデスゲーム開幕から出てくるとは思わなかった。
今のところ観戦会場に主宰者の姿はないが、心音がいるという事は来るつもりらしい。
デスゲーム主宰者、源氏ホールディングスという複数の世界的大手企業を束ねる代表取締役にして、世界を支配する九人の
彼女の名は鳳凰寺若紫。
この世界で生きていてはいけない人間である。
僕はモニターの映像を空港に戻す。
すると丁度、空港では黒服達が軍用輸送機にデスゲームの参加プレイヤーを運び入れているところだった。
担がれた碧を見て、僕は願う。
絶対的な犯罪者を葬るには、絶対的な名探偵をぶつけるしかない。
――碧、頼む。このクソゲーを潰してくれ。
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