【レシアの記録】あと、数時間。

「レシア。ねぇ、レシア。君はこうなること分かってたんだよね?」

「分かってたら、こうならないんじゃないかなぁ…」

「そんなわけない。だって君は――」

「私はただ間違えただけだよ。それ以上もそれ以下もない」

「間違えただけ?よく言えるね。こんな状況になる事なんて、誰だってわかるだろ!!」

「だから、それがわかんなかったんだって。私は正しく神様になれなかったんだよ」

ライラが息を呑む。

その瞳に映るのは、憤怒ではない。

言い表すなら、それは――そう。

畏敬。

何故だろう。

私にはわからなかった。

「考え直してよ。君は処刑されるような神じゃない。狂愛はもう終わりにしよう」

「無理だよ。私は皆を愛しているから」

「その愛が、おかしいって言っているのに…」

一転して、顔を曇らせるライラ。

私はこんな顔をさせたくてここまで生きてきたんだっけ。

違う。

違うよ。

お母様はこんな顔させなかったじゃん。

愛の神なら、皆笑ってくれるんじゃないの?

だって、私はそう習ったんだよ…。

「私、愛してるんだよ。もちろん、ライラの事も」

そうだよ。

愛してる。

愛してるの。

絶対、愛してるよ。

ねぇ、だからライラも…

「ライラ、愛してる。愛してるから」

笑って、くれるよね…?

「…そう」

「っ――!あいしてるって、言ってくれないの…?」

揺れ動く視界。

「さあね」

追い打ちをかけるように、続く言葉。

虚像の笑顔が剥がされて、どん底に落とされたことを実感する。

私愛されていない、のかな。

目を逸らしたライラは、何も答えてくれなかった。

そっか。

そういうことだったんだ。

ちゃんと愛したはずだったけど。

愛されないってことは、愛せてなかったんだよね。

つまり、私は。

母と同じ、愛の神にはなれなかった…?

そんなわけない。

私は皆を愛してる。

愛しているからこうしたんだよ。

私が愛せてないだなんて、そんなこと。

静かに時が過ぎる中、取り残された子供のように。

私は部屋で立ち尽くしていた。

緩やかに流れる時間に、ライラはとうにいなくなってて。

気がついた時、私は断頭台にいた。

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