第一章「記録の旅は蓋然的」

【レシアの記録】残り、一週間。

公務が滞らないよう、朝早く起きて朝食を摂る。

お母様の肖像画に手を合わせ、この国の神としての在り方を求める。

それが私の日常だった。

だけど、今日は。

…なんか、やる気が起きないなぁ…

なんて怠惰な事を考えて、ベッドの上で縮こまった。

一生こうしていられたら良いのに。

無理なことはわかってるから、いいんだけどね。

いつになくやる気のない私。

そんな私に、声が届く。

「レシア…今日こそは大丈夫だよね?」

毎朝起こしに来てくれるのは、眷属のライラ。

私はライラに隠し事しかしていないのに、あの子はいつだって私を信じてくれている。

本当は朝起きれること、知っているはずなのに。

せめて表面上だけでも、あの子にとっての真実を見せられるように。

布団に潜り込み、ドアが開くのを待った。

「レシアー?…もう、入るからねー」

躊躇いの感じられない言葉。

直後、扉を開ける音がして、ベッドが軋む。

その後、暖かいものが私の頭に触れた。

「ん…ライラ…?」

「そうだよ。今日は寝坊しないんだね」

穏やかで、どこか落ち着く声と、

優しく微笑みながら、髪を撫でる手。

その暖かさに、泣きそうになる。

ダメダメ。私は神様なんだから。

しっかりしなきゃね。

「ふふっ…ライラ、くすぐったいわ」

「…笑えるくらい目が覚めたなら、良かった。…あ、着替え用意しといたほうがいい?」

「大丈夫。ありがとう」

食堂で待ってて。私がそう言うと、ライラはベッドから降りた。

そして、もう一度私の頭を撫でる。

「早くおいでね」

そして子供に言い聞かせるように言い、部屋の扉を閉めてった。

足音が遠ざかるのを待ち、再度ベッドに倒れ込む。

あの手の暖かさを思い出しながら、私は呟いた。

――約束の日まで、あと一週間。

私はちゃんとやれるだろうか。

一生懸命維持した『この体』は、ちゃんと役目を果たせるだろうか。

天井に生るシャンデリアに手を伸ばす。

幼い掌は、届かず空を切る。

誰も疑問に思わなかったのだろうか。

人間の六歳児くらいで成長が止まっている私に、違和感をもたないのだろうか。

ステラもフィリアも、ちゃんと年齢に比例して成長していくのに。

私の体は、これで止まっているんだよ。

ちょっとくらい気付いてよ。

「はぁ…我儘はやめよう」

どうせ、あと一週間で全て終わる。

終わるんだもん。

お母様。私は、役目をちゃんと果たします。

愛したこの街を守るため。

愛した民衆を守るため。

愛してしまったライラを守るため。

全力で戦うから。

どうか、見守ってて。

「早く着替えないと。ライラが困っちゃう」

あと一週間の命。

分かっていても、辛くはない。

だって、私の命だけであの暖かさを守れるんだから。

これほど良い条件、ないよね。

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