【レシアの記録】残り、七日。
「うん、今日のご飯もとっても美味しかったよ!」
味のしないモノを飲み込み、笑顔で言う。
宮殿の雰囲気はやけに険悪だった。
仕方ないかぁ。
誰も知らない未来で、私は処刑されるんだし。
処刑まであと一週間となれば…その結末に向け、世界が動いていくのも当然だろう。
現に私の支持率は右肩下がりとなっている。
「…それなら良かった。レシア、食べ終わったなら公務に戻ろう」
少し怪訝な表情を浮かべながらも、ライラは手を差し出してくる。
その手を掴んで、椅子から降り。
食堂を後にする。
「……レシア様って、能天気すぎない?」
最後に小さく響いた言葉への目線は忘れずに、ね。
「ひっ……」
「…レシア?」
怯えるメイドの様子を見て、こちらを見るライラ。
もう一度、何もしてないよ、と微笑み。
今度こそ、その場を後にした。
◇◇◇
「ねえ、北東部の水質が悪化しているのは伝えたよね?それに、見たこともないような怪物が街を襲ってる。これに一体どう対処するつもりなの?」
大きな音を立てて、紙の山が机に落ちる。
その資料を流し読みしながら対策を考えた。
…正直、私にはどうするべきかわからない。
皆、私が神だから何でもできると思ってるけど…。
神が全知全能だと思ったらダメなんだよ。
私は全知全能には程遠いんだから。
けど、民衆を守るためならなんだってする。
ここの統治者として、最低限のことはするつもりよ。
「とりあえず、怪物の件に関しては騎士団を送って。水質に関しては…前と同じものを作るから、ちょっとまってね」
ライラの返事を待たずに椅子から降りる。
そのまま瞑目し、水が応えてくれるのを待った。
息を呑む音がする。
部屋の温度が下がり、水の流れる音が聞こえてくる。
手を伸ばした。
柔らかくて冷たい感触がする。
…そろそろいいかも。
頭に欲しいものを浮かべ、
魔力を流した。
瞬間、瞼の裏にも届く柔らかい光が充満し。
軽い何かが掌に乗る。
それを合図に目を開くと、掌には機械へと変貌した水が静かに佇んでいた。
「海神の奇跡、だっけ。何回見ても慣れないね」
そう言ったライラに頷く。
普通の水魔法ではこんな…水を何か他の物質に変える事はできない。
が、コレ―海神の奇跡―は特別だった。
コレは海神の血筋の者しかできず、もっといえば海神の座に就いたものにしか上手く扱うことはできない。
まさに、海神にだけ許された特権なのだ。
「はい、ライラ。これを持っていってあげて」
「…別にいいけど、それで民が納得するとでも?これだと今までやってきたことの繰り返しになるよね」
”レシア、君の支持率がどのくらい下がっているか分かってるの?”とライラは続ける。
私だってわかっている。
けれど、そうなってくれないとなの。
だって、私が自分の処刑を望むのはね、
決まった未来を実現させるためだけじゃなくて。
「別に、いいのよ」
ライラ、あなたの為なんだよ。
あなたに平穏な未来が訪れるようにする為なんだよ。
目の前の子に笑顔を返した。
考えを改める気のない私にため息をつき、ライラは部屋から立ち去っていく。
あと一週間。
たった、一週間。
◇◇◇
レシアはそのまま、無意味な対策を続けていった。
完全に無意味なわけじゃない。
けれど、状況が改善するわけでもないから民衆は怒った。
その民衆の様子を見て、焦ったレシアは無茶苦茶な指示ばかり出すようになり。
怒涛の一週間が過ぎた今日。
彼女は五時の鐘と共に水へ還る。
せめて、私が彼女に触れられたら何か変わったのかもしれない。
けれどここは記憶の中。
結局、現実が変わるわけじゃない。
何かしようと頑張ったって、無駄なんだよ、レーニス。
自分に言い聞かせる。
こんなに小さな子の処刑を、
自分より小さな子の死の瞬間を…
私は最後まで見ていられるかな。
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