序章.3「綺麗な世界」
「――つまり、貴方達の要求は私達が再び表舞台に立つこと、だよね」
「そうだね。僕達は君達の力を必要としているから。…できる限り、応じてほしいな」
少し困ったように笑うライラは…きっとこういうのに慣れているのだろう。
ライラの態度から、それが感じ取れた。
何故なら…『相手の望む姿を見せる』
そのことの重要性を、ライラも理解しているみたいだったから。
だからきっと、こんな優しい口調で言っているのだけど…。
きっと本心は、「拒否権とかないから」って思ってるんだろうなぁ。
そこで、ふと気づく。
…咲羽達が居るのに、私達に助けを求めることって何?
あの子達だけじゃ力不足なのだったら、私達が居ても…。
何も変わらない……とは、言い切れないんだった。
「それは私達がいないといけないことなの?」
「当たり前だ。そうじゃなきゃこんな場所来るわけないだろ」
結界解くのが面倒くさいんだよ。と、悪態をつく秋。
確かにここの結界は私でも壊すのは面倒だと思う。
それを破ってまで来るってことは、やっぱり力が必要なんだろうな…。
しかも、相当困ってる。
――だとしても私は表舞台に立つつもりはないんだけど。
まあ後はお兄ちゃん次第かな。
「お兄ちゃん、どう思う?」
私が聞くと、お兄ちゃんは少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「協力しても良いんじゃない?別に害はなさそうだし。…けどまあ、無償でってわけにはいかないけどねぇ」
にこっと笑うお兄ちゃん。
その笑顔を私はよく知っている。
ああ、これ。
協力する気ないね。
つくづく冷たい自分の兄に呆れながら、私はいつも通りの台詞を言う。
「そうだね。…だから、貴方達にクイズを出してあげる。もしこれに答えられたら…協力してあげるわ」
「…そのクイズに正解すれば、絶対に協力をするんだな?」
警戒気味の愬に勿論。なんて笑顔を返す。
嘘だから。
嘘だったから、笑顔を作れる。
だって…もし正解しても、協力するのは私だけだし。
お兄ちゃんは絶対協力しようとしないからね。
私達はそういう人たちだよ。
…まあいいの。
どうせ二人共協力する未来はないし。
だって、出すのは答えようがないクイズだから。
正確に言えば…選択肢に答えがないクイズ、だね。
あーあ。可哀想に。
なんて、柄にもないこと思って。
私は問題を口にする。
「クイズは簡単。私とお兄ちゃん、どっちが創造神で、どっちが破壊神なのか当ててみて。解答権は全員に一回ずつ、でどうかしら」
「え…?それだと、絶対に正解するんじゃないの?」
困惑しながら聞いてくるステラ。
…普通そう思うよね。
私も貴方達と同じ立場ならそう思うと思うもん。
まあ精々頑張って。
もし、本当に正解できたら…。
その時はちゃんと『私が』協力してあげるから。
なんて余裕ぶってたのに。
「君達は二人共、破壊神だろう?」
「…は?」
その少年は、それを壊した。
当ててしまった。
他の三人は間違ったのに。
他の人が考えもしなかった可能性を、口にした。
でもそれはあり得ない事で。
…だってそれは、知り得ないことで。
どうして…。
なんて思った時に、
『あら、貴方達は破壊神でしょ?』
微笑のあの子と秋が重なる。
あぁ、そういえば。
「貴方はフィリアの眷属だったわね」
フィリアも、見抜いていたっけ。
…流石生命神様。
対策はばっちり、かぁ。
ちらっとお兄ちゃんの方に目をやる。
諦めよう。
お兄ちゃんはそんな目でこっちを見ていた。
しょうがないか。
「…それで、結果は?」
「………正解、よ」
誠に不本意ながら、ね。
私の言葉に全員が安堵の表情を浮かべる。
そして口々に、「やっとこれで」とかなんとか言っている。
何故そこまで私達の協力に拘るのかわからないけど、
今ならきっと、全員の注意が逸れてる。よね。
お兄ちゃんに合図を送る。
それに気付いたお兄ちゃんは、一歩下がる。
…気付かれてない。
うん、今だね。
魔力を集め、探知阻害魔法を使った。
勿論お兄ちゃんだけに。
私は約束を守らないといけないからね。
魔力の動きに気付いたのか、全員の注意が此方に向いた。
――お兄ちゃんはもう居なかったけど。
何事もなかったかのように突っ立っている私に、
呆れたような顔をした秋が質問してくる。
「…さっきの協力する、って君だけだったり?」
わかりきったそれには無言で笑顔をプレゼント。
そんな私の様子に追求を諦めた秋。
「はぁ…君だけでいいから、ついてきてもらうよ」
「いいよ。だって、約束だもの」
そうして私は誘拐された。
閉ざされた国から、かつての明るい場所へと。
「――ん」
「…あ、起きたんですね」
上から可愛らしい声が聞こえた。
顔を上げる。
桜色の猫耳が、私を見下ろしていた。
あー…戻ってきたんだ。
「…ん?起きたんですね…って?」
「え?あー…えっと、そうですね…」
どうしようかな…と困る彼女に首を傾げる。
いつも記録を見たときは、見る前から数秒たったくらいに目を覚ますはずなのに。
なんで彼女は、私が記録を見に行ったと分かったんだろう。
「えっと、説明が難しいんですけど…レーニス様、ご自身の記録を見に行った時は暫く目を覚まさないんですよ。今まで黙っていたんです。すみません…」
…そうだったんだ。
新事実に密かに驚きつつ、大丈夫だと謝る彼女に伝え。
改めて自分の本と向き直る。
あの記憶は確かに、此処に来るまでの私のものだ。
此処に来たばっかの時はなかったはずだけど…
やっぱり日に日に記録されてるんだろうなぁ…。
それで、この本は私が死んだら完成するんだよね?
そのことに関してはもう別にいいんだけど、
今『記録』を見れるのは私だけ。
じゃあ私がいなくなったら、誰が『記録』を見るの?
遠くなった桜に目をやる。
彼女は先代獣神、木ノ葉の眷属であり、当代獣神の夜宵。
今、神様となっているのは彼女だけではないけれど…。
彼女達の誰も、この記録を見ることができないらしい。
その理由が何故かは判明していない。
分かっているのは私以外見れないことだけだから。
私は全部の記録を見ないといけない。
そしてそれを伝えなきゃいけない。
「…ライラにお願いして、次の本を持ってきてもらわないと…」
若干揺れる視界を無視して、私は席を立った。
ライラはどこにいるかな。
…此処にはいないみたい。
どうしようかな。
少し迷って、決めた。
行こう。
こっちに戻ってきてから、
一度も行けていない場所へ。
アクィラと娘のレシアが過ごしたあの国へ行こう。
「どこかお出かけですか?」
「うん。もし、私に用事がある人がいたら言っておいて。レーニスは”深海都市アーディア”に居るって」
「…分かりました。お気をつけて」
夜宵にお礼を言って会議場から離れた。
何日ぶりに会議場を出たのだろう。
あの時は思わなかった事ばかり浮かんでくる。
例えば…
「あの子達はもういないのに、世界は奇麗なままなのね…」
独り言は風に吹かれて消えてった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます