一章.13「想う暖かさ」

周りとは何かが違う、神様たちの会議場。

夕方のこの時間は皆忙しいはずだから、誰もいないかと思ったけど。


「レーニス様!!お戻りになられたんですね!!」


「ステラは本当に心配した。秋のところにいたはずなのに、居なくなってるから」


何故か全員が揃っていて。

全員が私を見て安堵の表情を浮かべた。

理由は不明。

私は首を傾げ、夜宵に向けて口を開く。


「ごめん、何かあったんだっけ?」


その瞬間固まる夜宵。

秋が奥で溜め息をついていた。

…えっと、私何かやらかしてたっけ。

記憶を辿る。

確か、如月神社に行く前は――


「――っあ!!秋に何も言ってなかった!!」


ウァリティアで静養させてもらってたんだった。

確かあのとき、何かを思い出して倒れた後だったから、思考が混濁してて…。

とにかく『帰らなくちゃ』と思っていたから、何も言わず出てきてしまったんだ。

流石に申し訳ない、なぁ。


「ごめんなさい。次からは気をつける」


何の違和感もなく出てきた謝罪。

それに何の恐怖も無くなっていたことに恐怖し、口を閉ざした。

あの人との思い出のせいで、言えなくなっていたはずなのに。

どうして私は…。


「…本当だよ、全く。そんなに僕達は信頼できないのかい?」


お兄様にもお兄ちゃんにも、あの人にもできないことを、彼らにできるのだろう。

そう思ったけど。

何故か、全てどうでもいいような気がしてきた。


「ううん。皆のことは信頼しているよ。…皆が居ないと、何もできなかったから」


ただ思いついた本音を告げる。

悪いことを言ったわけではないはずなのに。

どうしてか皆の表情が崩れた。


「…ごめん、この後シグナ様の公務の手伝いがあるんだよね」


微妙な空気を消すように、ライラがそう言う。



「そうだったんだ。行ってらっしゃい」

私はそれにこう返すしかなかった。


◇◇◇


ライラが去った会議場。

椅子に座って、私はシグナから受け取った記録を眺めていた。


「レーニス様、お茶をどうぞ」

「ありがと」


表紙に映る文字は、『フィリアの記録』で。

暖かさと優しさ、それに寂しさの混じった表紙にただ思いを馳せた。

私が彼女に会ったのは、お互いまだ小さい頃だった。

だから、記録の端々で映る彼女の成長に正直頭がついて行っていない。

フィリアは私より小さかったはずなのに、あんなに凛として――


「私とは大違いな人生を歩んだのかな」


机に突っ伏した。

同じ目線になって見てみる本は、

やっぱり奇麗だった。

思わず出る溜息。

腕に顔を埋め、そのまま指でテーブルを模索する。

私の指はしばらくテーブル上を踊り、

やがてコツンとぶつかった。

その瞬間、陽射しが差して。

私の体は熱源と一体化して、

光溢れる既知のウァリティアが私を迎え入れる。

何度目か分からない感覚を受け入れ、

私はその地に立った。

足を一歩踏み出すと、切り替わる風景。

目の前には山吹色の瞳を持った少女と、蜜柑色の髪を持った少年が対峙している。


「フィリア、秋。ちょっとだけ記録を見せてね」


記憶の彼女は答えてくれなかった。

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