神様たちの幸福理論

猫墨海月

序章「永続的だと思っていた」

序章.1「彼女達の幸福理論」

同僚だった神様達が死んだ。

厄災の襲来に負けてしまったらしい。

彼女達の眷属が気がついた時には、もう既に彼女達は手遅れだったんだそう。


それは、閉ざされた国で生きていた私には知り得なかったことで。

今その悲しみに打ち拉がれようと、彼女達が戻ってくることはなくて。

私はただ、彼女達の同僚として…

同じ”神様”として、心無い言葉を投げた。

「あの子達が死んだのは、実力が足りなかっただけだから」

思っても居ないことだった。

だけど、それが、その振る舞いが神として正しいことだと教えてくれたのは彼女達で。

彼女達の置いていった眷属達がその言葉に怒るのを、

私はただ見ていることしか出来なかった。


「…これを読んでみてよ」

全員の激情が収まった頃。

眷属の一人が本を手渡してきた。

一見まっさらなその本は、

どうやら彼女達の魂…いや、想いが記録されているものなんだそう。

「我らが読んでも…その想いを見ることは出来なかった」

眷属達の辛そうな顔は、私の胸に酷く突き刺さった。

だって私は見れてしまったから。

彼女達の記憶を、想いを、感情を、私は見れてしまったから。

その壮絶な生き様に、何も言えなくなってしまったから。

いつも思う。

神様って言うのは自分勝手なんだよね。

彼女達は強かだった。

それでいて、脆かった。

私はそんな彼女達を酷く尊敬しているし、

そんな彼女達を好いていた。

私が彼女達の訃報を聞いた時の心情は、きっと誰にも理解できないよ。

幸せが去ってしまうのに気付かなかった苦しみが、彼女達にわかるのかな?

なんて幼稚なことを考えた。

そして、彼女達にそう言ってしまった。

でも彼女達の『記録』は語った。

『これは私達の幸福理論よ』

そう。

誰よりも実力があった彼女達が、厄災程度に負けるはずがなかった。

これは彼女達なりの幸福理論だった…らしい。

私にはわからない。

だから、私は探したい。

彼女達の掲げた幸福理論を、理解したい。


◇◇◇


「他にあるのは、これくらいだけど…。…やっぱり君には見えたんだね」

「…そうね。やっぱりそれは、私が同僚だったからかしら」

「そっか。…まあ僕達に手伝えることがあったら言ってよ」

本を手渡してくれるのは、いつも同じ人。

どうやらその人が彼女達の『記録』を管理しているよう。

そのあまりに複雑な顔に、申し訳無さすら感じてしまう。

【なんで、自分じゃないのか】

【なんで、この人が】

【やっと彼女の心情が理解できる】

【それでも、自分には理解できない】

まるでそんな言葉が聞こえてくるよう。

「…ありがとう」

それでも本を貸してくれるし、

何も言われないから私も何も言わない。

かつての会議場所は明るさを失ったまま、

時の流れに身を任せていた。

私はいつか、この場所に明るさを取り戻したい。

それが何百年、何千年、何万年後の話だとしても…

この場所が「この場所」ではなくなってしまっていたとしても、

この地で彼女達と笑い合える未来が訪れてくれたらそれでいいから。

…なんて、ただの妄想だよ。

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