第22話


後日、私はネットの記事を見てスマホを落としそうになった。


そこにはモザイクはかかっているけれど明らかに私と、そしてフードとサングラス姿の誠が並んで私のマンションに入っていく写真が貼られていた。


しかも記事には、

<人気絶頂の黒井誠!年上女性と熱愛発覚!>

と大々的に書かれてしまっている。



「どっ、どうしよう……っ!」


もうマンションが知られてしまったってことだし、私のことも……。

てことは、どこで誰が張ってるか分からないし、今でさえ私は撮られているかも!?

会社にだけは迷惑かからないようにしないと……

それになにより、誠に影響が出ないようにしないと……



昼休み、さっそく大城くんに呼ばれ、週刊誌を見せられた。


「これっ……」


「今朝たまたま見かけてさ…」


そこには、私と誠のたくさんの写真が貼られていた。

私の顔にはモザイクがかかっているけど、どう見ても私だし、私のマンションへの道で撮られている。


「まぁこれパッと見、高峯だって分からないけどさ……」


「SNSも凄いことになってる……どうしよう」


「とりあえず、黒井くんも知ってるはずだから連絡を待とう」


ここまで世間の話題に登るとは……

初めはただのジムのインストラクターだったはずの黒井誠は、今や人気ナンバーワンタレントのようになってしまっている。

ジムの方は常に予約満杯で、誠は週に2度しか出勤しなくなっているらしい。

他の仕事のオファーで忙しくなってしまっているからだ。

何かとのコラボやタイアップ、テレビや雑誌などのメディア撮影……それに加え、そもそも誠は大学生だ。

優秀とは聞いているが、あまりにも多忙な生活をしているだろう。

そんな中、邪魔をしたくないし精神的な負担をかけたくない。


仕事を終えてから、急いでスマホを開く。


「まだ読んでないのかなー……」


前よりも明らかに誠からのメッセージは減った。

それくらい多忙なことはわかっているので、今日のことについての返信も未だないことに疑問は抱かないが、ソワソワと落ち着かない。



「高峯一花さんですね?少々お話宜しいでしょうか」


会社を出ると突然、見知らぬ男性に話しかけられた。

黒縁の眼鏡をかけた、30代半ばくらいの男性だ。


「ちょっと誰なんですか、あなた」


私の前にずいっと入り込んできたのは大城くんだった。

男性は一気に眉に皺を寄せた。


「……?あなたこそ誰です?いや…いいです。えーと私は、はい名刺です。」


渡された名刺には、柳原優斗と書かれており、会社の名前と、そして……


「もしかして、誠の……」


「えぇ。黒井誠の専属マネージャーです。

近頃、うちの誠とパパラッチされている件についてなんですが」


「は、はいすみません……でもそのっ……私たちは決してそういう関係では……」


「そういった話も含めてとりあえず移動してもいいですか?ここじゃなんですから」


「なら俺も行きます」


「いや、だから、あなた誰なんですか」


「この子のマネージャーみたいなもんですよ」


「………そうですか……」


大城くんは私のことを心配してくれたのだろう。

いくらなんでも会ったばかりの見ず知らずの人と2人きりにはさせられないと。

別れたあとなのに、本当に優しい。


私たちは、柳原さんの車で近くの喫茶店へと移動した。

その間も、誰かにどこかで撮られてしまっているんじゃないかと気が気じゃなかった。

有名人っていつもこんな感覚を味わっているんだろうか……

だとしたら大変なストレスだろう。

しかし、まさか自分が味わうことになるなんて夢にも思わなかった。



「あの……誠は今……」


「彼は今日、雑誌のインタビュー撮影と番組の収録が一日中詰まっていて。21:00頃迎えに行く予定です。」


そっか……

通りで、全く返信が来ないわけだ。


「しかしこの騒動については知っています。」


「えっ」


「はぁ……誠いわく、何が問題?だそうです」


「はははっ、黒井くんらしいね〜」


「笑いごとではありません!こういった異性関係の露呈は必ずイメージダウンになります。四方八方のメディアにも多大な影響が出るので世の中の経済にもダメージを与えるんですよ!」


笑っている大城くんに、柳原さんは周りを気にして声のトーンを落としつつも、かなりの剣幕で声を荒らげた。


「それを誠は全く分かってない……いくらまだ若いにしても、地頭は良いはずなのに……」


「いや無駄ですよ。黒井くんは高峯のことが大好きで、それ以外のことはホントにどうだっていいって子ですから」


大城くんの言葉に、私は顔が熱くなるが、同時に複雑な気分にもなる。

柳原さんは当然困ったように眉を寄せている。


「……。今日はそこで、高峯さんに提案があって来ました」


「提案?ですか……?」


「高峯さんは、誠と付き合っているわけではないそうですね?」


「あ……はい……」


「では、イトコやハトコ、親戚のお姉さんという底で、あえてメディアに出るのはいかがでしょうか?」


「はい?!」


「その方が、これ以上あることないこと世間で噂されることは無いですし、むしろ誠もあなたも好感度アップで何かしらのマイナスな影響を受けることはないはずです。」


「ちょっと待ってください」


ストップをかけたのは大城くんだった。


「そんな嘘をついてしまうのはリスクではないですか?バレた時、それこそ面倒ですよ」


「そんなところまでは流石に探られません。誠は一人っ子で家柄が太いので、注目されるのはそこだけです。」


そういえば、一人っ子とは聞いていたけれど、誠の家庭について聞いたことは1度もなかった。

家が太いってどういうことだろう……?

何かの事業をやっているとか、大きな企業とか、もしかして有名な何か……?


「そもそも誠が属しているプラチナジム。今では全国に50個、現在海外にも進出中のあれだって、誠の実家が経営しているんですよ」


「「えっ?!」」


「だからむしろまぁ、実家が注目されるのはそれを見越したことだと言いますか」



……知らなかった。

誠は私のことばかりで全然自分のことや自分の周囲の話はしないから。


けれど……

だったら尚更、誠や誠の家に少しでも不利益や迷惑になることは避けるべきだ。

この人の言うことに従っておくべきかもしれない。

だって私じゃ、どうするのが正解かわからないし。



「わかりました……それが、誠のためになるのなら」


「えっ、高峯……でも……」


「話が早くて助かります」


「でも、1ついいですか?」


私は真剣に前を見据えた。



「恋人関係になった時には、どうすればいいですか?」



バッグの中で、ブブッとスマホのバイブ音がした。

ほぼ同時に、柳原さんも自分のスマホが鳴ったのか、画面を確認し出した。

私もスマホを取り出す。



" 一花〜!会いに行くね! "


ようやく誠から返信が来た。

仕事は終わったんだろうか。

きっと、疲れているだろうな。

夕飯、何作ろう?

今日の話は、どうなるかな……


最近、私の頭の中にはいつも、誠の存在がある。

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